36協定とは、労働基準法36条に基づいた「時間外労働・休日労働に関する協定」のことです。企業が従業員に法定労働時間を超えた時間外労働や休日労働をさせる場合、事前に書面にて労使協定を結ばなければいけません。

そして2023年4月には、36協定に関わる法律が一部改正されます。時間外労働に伴う割増賃金率の変更で、給与計算や経営に関わる人件費にも大きく影響を及ぼします。そこで今回は、2023年4月から変わる36協定のポイントと法改正までに取り組むべき備えについて、そして勤怠管理システムについて詳しく解説します。

36協定に関わる改正内容

2023年4月の施行内容は、以下の通りです。

・割増賃金率の割増

月60時間を超える時間外労働は、割増賃金率が引き上げられます。割増賃金率の引き上げについては、2010年4月の改正で施行されています。ただし、その時点で対象とされたのは、資本金の額や労働者数が「大企業」に該当する企業のみで、中小企業については当分猶予が設けられていました。

その猶予期間が2019年4月の「働き方改革関連法」で廃止され、2023年4月より中小企業にも適用されることになっています。具体的には以下のようになります。

・中小企業の定義

大企業・中小企業の区分けは、以下のように業種ごとに「資本金の額または出資の総額」「常時使用する労働者数」を満たすかどうかで企業単位に判断されます。

・割増賃金率引き上げ

今回の施行内容は「長時間労働を是正する」ことを目的としたもので、厚生労働省の資料にも「通常の勤務時間とは異なる特別の労働に対する労働者への補償を行うとともに、使用者に対し経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制すること」と明記されています。

引用:改正労働基準法のあらまし|厚生労働省

これまで中小企業に猶予期間が設けられた理由は、企業の経営自体に及ぼす影響を考慮してのことです。しかし社会全体が働き方改革に向けて進み始め、中小企業でも引き上げが施行されることになったということです。

36協定に関わる改正のポイントは3つ

36協定に関わる改正のポイントは大きく分けて3つです。ここでは具体例を挙げて説明します。

割増賃金の計算方法

割増賃金の考え方としては月60時間を超えた部分を50%、60時間以下を25%として計算します。計算方法は、改正前後で以下のようになります。

◆例

基本給200,000円、一か月あたりの所定労働時間が160時間、残業が70時間発生した場合。(深夜残業の条件は外します)

200,000円÷160時間=1,250円←時間給に相当する金額が割増賃金基礎額となる

改正前 改正後
1,250円× 70時間 × 1.25(割増率25%)= 109,375円       1,250円×60時間 × 1.25(割増率25%)+1,250円×10時間 × 1.5(割増率50%)=112,500円

改正によって、時間外労働の条件がどのようにかわったのかお分かりいただけたかと思います。

参考:しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-|東京労働局

深夜・休日労働の取り扱い

深夜時間と休日労働の取扱いにも注意が必要です。月60時間を超える時間外労働を深夜帯(22:00~5:00)に行わせた場合は、深夜割増賃金率の25%を加算する必要があります。したがって、以下のような計算になります。

◆例

基本給200,000円、一か月あたりの所定労働時間が160時間、残業が70時間、うち10時間が深夜帯だった場合

200,000円÷160時間=1,250円←時間給に相当する金額が割増賃金基礎額となる

改正前 改正後
1,250円× 60時間 × 1.25(割増率25%)+1250円× 10時間 × 1.5(割増率25%+深夜割増率25%)=112,500円 1,250円×60時間 × 1.25(割増率25%)+1,250円× 10時間 ×1.75 (割増率50%+深夜割増率25%)=115,625円

参考:2023年から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます|厚生労働省

休日労働は通常の時間外労働とは区別され、割増賃金率は35%が適用されます。ただし、労働基準法によって規定されている法定休日は「1週に1日以上の休日」または「4週4日以上の休日」(第35条)です。

つまり、土日の週休二日制の場合、日曜日は割増賃金率35%が適用され、土曜日は月60時間の時間外労働時間の算定に含まれます。以下の表を参考に、それぞれの割増率を確認しておきましょう。

出典:しっかりマスター労働基準法-割増賃金編-|東京労働局

代替休暇

増賃金率の引き上げにあわせて適用されたのが、代替休暇制度です。代替休暇制度とは、引き上げ分の割増賃金の代わりに有給の休暇(代替休暇)を付与できるというものです(第37条第3項)。従業員の健康を確保することを目的としていますが、企業にとっても人件費の負担軽減になり長時間労働の是正にもつながる制度です。

代替休暇の計算には「換算率」が用いられ、算出方法は以下のようになります。

  換算率 → 代替休暇を取得しない場合の割増賃金率(50%以上)

         - 代替休暇を取得した場合の割増賃金率(25%以上)

  代替休暇の時間数 =(1ヵ月の法定時間外労働の時間数-60時間)× 換算率

分かりやすく言うと、60時間を超える法定時間外労働を行った場合、企業はこれまでと同様に25%の割増賃金を支払います。そして割増率の増加した部分を代替休暇に代えて付与できるということです。

なお、この制度の導入にあたっては、算定方法(換算率)や取得単位(半日、1日)、取得期限などを労使協定で締結しなければいけません。また導入は代替休暇を可能とするものであり、個々の従業員に対して代替休暇の取得を義務付けるものではないため注意が必要です。

法改正までに企業がやるべきこと

2023年4月までに企業が行うべき対応は以下のようになります。

労働時間の把握・可視化

割増賃金率の引き上げによって労務管理はより複雑化することが予想されます。そのため、企業は正確な労働時間の把握と可視化が必要です。

労働時間の管理については厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」でも示されており、労働時間を記録する方法は原則として「使用者が、自ら現認により確認し、適正に記録」もしくは「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録」とあります。また、賃金台帳には「労働者ごとに、労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数といった事項を適正に記入しなければならない」とされています。

引用:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン|厚生労働省

これらのことから、企業側では勤怠管理システムなどを利用して効率的な労務管理を進めるとよいでしょう。

業務効率化

割増賃金率が引き上げられる目的は、長時間労働を是正するためです。よって、企業は時間外労働の削減に向けて労働環境の改善に取り組まなければいけません。

まずは現在の労働状況を把握し、一部の従業員に過度な負荷がかかっているなら業務の再分配を検討しましょう。仕事が最適化されれば従業員のモチベーションも上がり、生産性向上につながります。

また、業務の効率化を行うために、新たなITツールを導入するのも一つの方法です。勤怠管理をはじめとしたバックオフィス関連、情報共有、営業支援、ワークフローなどを活用し、企業全体で働き方改革を進めてみるのもよいでしょう。

代替休暇の検討

企業は引き上げ分の割増賃金を支払う代わりに、有給休暇(代替休暇)の付与についても検討が必要です。注意点として、代替休暇制度を導入する場合は事前に労使協定を締結しなければいけません。労使協定で定められる内容は以下の4つになるので、事前に確認を進めましょう。

  1. 代替休暇の時間数の具体的な算定方法
  2. 代替休暇の単位
  3. 代替休暇を与えることができる期間
  4. 代替休暇の取得日の決定方法、割増賃金の支払日

引用:改正労働基準法のポイント|厚生労働省

就業規則の変更

割増賃金率だけではなく、休日・深夜残業、代替休暇などで就業規則の見直しが必要になるケースがあります。法務及び、労務担当者は就業規則の確認も進めておきましょう。

36協定に違反すると懲役や罰金、社名の公表など、さまざまなリスクがあります。

こちらの記事もチェックしてみてください。

記事:36協定に違反するとどんな罰則がある?

勤怠管理システムを導入して法改正に備えよう!

割増賃金率の引き上げによって、時間外手当や代替休暇などの労務管理は以前にも増して複雑になります。さらに企業には、適正な勤怠管理を行い長時間の時間外労働を是正することが求められています。これらを解決する方法として利用できるのが勤怠管理システムです。

勤怠管理システムを導入すれば、労働時間の管理だけでなく給与システム・会計システムへの連携によってバックオフィス業務全体の効率化にもつながります。気になる方はぜひ検討してみてください。

この記事の執筆

honyakuma

ライター

システム会社勤務のサラリーマン。これまで物流、バックオフィス系のシステムに従事。「ITをわかりやすく」をモットーにWEBライターとして活動中。

この記事の監修

ITreview Labo編集部

ITreviewの記事編集チーム。ITreviewの運用経験を活かし、SaaSやIT製品に関するコンテンツをお届けします。

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