ビジネスのグローバル化が進むなか、高い関心を集めるようになったのが、サプライチェーンマネジメント、通称SCMの役割です。国をまたいだ流通を実現するSCMの強化は、安定した事業の継続において今や欠かせないものとなっています。

本記事では、SCMの導入がもたらすメリットや、SCMの歴史などについて触れつつ、現在SCMが注目を集める理由について解説します。

サプライチェーンマネジメント(SCM)導入の効果

サプライチェーンマネジメント(SCM)は、製品の生産から供給まで、実際に消費者の手に製品が渡るまでの流れを最適化する取り組みです。SCMの実践には専用のツールなどが活用されていますが、SCMを実践することによって、まずはリードタイムの短縮が期待できるでしょう。

SCM導入は、製品の流れを見える化し、どんなプロセスに課題を抱えているのかを明らかにします。適切な課題解決を実践することで、従来よりも迅速に商品が消費者の手元に届くように仕組みを改善できるでしょう。

また、流通量に応じて適切な在庫の確保を実現できるため、余分に在庫を抱える必要がなくなります。必要な量をリアルタイムで見極められるようになり、在庫を確保するためのコスト削減や保管コストの削減にもつながるでしょう。既存設備の稼働状況を見直し、より効率的に運用するための施策も検討できるため、設備投資を抑えられる効果も得られます。

SCMの導入は、サプライチェーンに関する収益性を改善し、無駄の少ない事業経営を実現することで、スマートな企業へとアップデートすることにも貢献します。短時間で商品を顧客に提供し、流通に関するコストを小さく抑えることで、従来では考えられなかった成長力を期待できるでしょう。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の始まり

SCMの概念が誕生したのは、1980年代のアメリカです。当時、海外から流入してくる安い商品に圧倒されていたアメリカのアパレル業界は、競争力回復に向け、生産プロセスの見直しに取り組みました。QR(Quick Response)と呼ばれたこの取り組みは、コスト削減や在庫の削減につながり、キャッシュフローの改善を実現したことで、別業界でも盛んに採用されることになったのです。

その後、アパレル業界の成功を食品業界でも模倣しようという取り組みが広がり、ECR(Efficient Consumer Response)と呼ばれる、QRを発展させた施策が広く普及します。ECRも一定の成功を収めたことで、QRやECRといった一連の施策は、瞬く間に米国全土に広がりました。

1990年代初頭、QRやECRはSCMと総称されることとなり、同国での体系化と日本を含めた世界各国での導入が進み、今日に至ります。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の進化がもたらしたもの

SCMは、さかのぼると40年以上の歴史がある、体系化された取り組みとも言えますが、近年は大企業を中心に導入されています。SCM導入によって最も大きな効果を得ているのが、物流業界です。従来の独自手法よりも体系化された流通システムの導入により、はるかに短いリードタイムを実現したり、細かな要求への対応も実現したりしています。

高度な物流システムを構築できるようになったことで、事業を大きくするハードルも低くなりました。大規模な物流センターを自社で構えたり、陸海空の垣根を超えた複合的な輸送システムを構築したりすることにも貢献しています。グローバルに物流網を構築し、効率的な運用を可能にしたことで、昨今のグローバルビジネスを支えるインフラとしての役割を果たしています。

ECの普及やグローバル企業の登場により、物流業の重要性はここ数年で急激に高まっている様子がうかがえます。急速なニーズの拡大や、ビジネスの複雑化へのキャッチアップをサポートするのが、SCMの役割です。

サプライチェーンマネジメント(SCM)はなぜ注目されているのか

SCMは、これまで高度なマネジメント手法であったこともあり、ある程度人材とテクノロジーを備えている会社でなければ導入は難しいと考えられてきました。そんななかで近年注目を集めるようになった理由として、まずはIT技術が高度に進化していることが挙げられるでしょう。

インターネットの普及や各種サービスが発達したことで、企業は従来よりも簡単かつ安価に高度な業務用システムを実装できるようになっています。SCMも例外ではなく、パッケージ製品の導入で、ノウハウのない企業でも高い導入効果が期待できます。

また、高度なシステムを一から開発する必要がないので、開発にかかるコストや時間も小さく抑えられるのが特徴です。システム導入のハードルとなっていたのが、予算と時間の問題でした。しかし最近の各種サービスは、これらの問題を回避しやすい環境が整っています。

日本を含めた各国でグローバルビジネスが盛んに発達していることも、SCMが注目されている背景だと言えるでしょう。企業が生産拠点や物流拠点を海外に置き、国をまたいだやりとりが当たり前になっている時代において、各拠点が世界各国に点在していることは珍しいことではありません。複雑になった企業のネットワークを、小さい負担で管理する上で、SCMの導入は不可欠です。

日本企業は比較的グローバル進出が進んでいないこともあり、今後ますます海外への進出を志す企業が増えていくことが予想されます。SCMの導入の取り組みは、グローバル化に合わせて増加するでしょう。

サプライチェーンマネジメント(SCM)の今後

SCMは以前より導入しやすくなったとはいえ、依然として大企業に導入先が集中しているため、中小企業で盛んに導入が進んでいるとは言えないのが現状です。とはいえ、SCMは事業規模が小さくとも導入しやすい技術となっているため、今後普及が進むことが期待できます。

SCMの普及は物流業界、ひいては物流に関わる小売りや食品業界においても良い影響をもたらすことが期待できます。社会や経済のさらなる発展にも貢献するでしょう。

しかし、懸念しておかなければならないのがサイバーセキュリティの問題です。重要度を増しているサプライチェーンは、その重要性を逆手にとってサイバー攻撃の標的となる機会も増えています。

サプライチェーンが停止してしまうと、会社によっては事業継続も危うくなるほどのダメージを受けるケースもあります。したがって、適切なサイバーセキュリティ対策を進めておかなければなりません。

SCMの導入に当たっては、ただ業務を効率化するだけではなく、正しい知識とノウハウを持って、セキュリティ強化によるリスクマネジメントにも着手する必要があるでしょう。

この記事の執筆

ITreview Labo編集部

ITreviewの記事編集チーム。ITreviewの運用経験を活かし、SaaSやIT製品に関するコンテンツをお届けします。

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