近年、生成AIの急速な進化を背景に、多くのSaaSがAI機能を標準搭載するようになりました。その結果、企業はこれまで以上に、AI前提でのツール選定を迫られる時代に突入しています。
しかし、AI搭載をうたうSaaSの中には、実務で活用しきれないものや、ブラックボックス化によるリスクを抱えるものも存在します。選定を誤ると期待した成果が出ない投資になりかねません。
本記事では、生成AI時代におけるSaaS選定の考え方の解説に加えて、AI搭載SaaSを比較するためのポイントや導入時に注意すべき観点を実務目線で徹底的に解説していきます。
この記事を読むだけで、AI搭載型のSaaSを見極める判断軸が明確になり、ツールの選定に迷っている担当者や意思決定者にとって、確かな指針を得られる内容になっています。
目次
SaaSとは何か?改めて整理
SaaS(サース)とは、Software as a Serviceの略称で、ソフトウェアを自社で開発・保有するのではなく、クラウド上で利用する形態のことです。最大の特長は初期投資を抑えて導入できるところにあります。
また、従来型のオンプレミス型システムとは異なり、サーバーの構築や保守運用が不要であるため、ITリソースが限られる中小スタートアップ企業でも導入しやすいところが評価されています。
具体的には、会計、人事、営業、マーケティング、カスタマーサポートなど、幅広い業務領域でSaaSが活用されており、業務の標準化と効率化を同時に実現するツールとして普及が進んでいます。
さらに近年では、生成AI機能を組み込んだSaaSも増えており、単なる業務効率化ツールから意思決定を支援する戦略的ツールへと進化を遂げています。今後はAI機能の有無がSaaSにとって重要な選定指標となることは間違いないでしょう。
AI機能搭載SaaSが重要な理由
- ①:業務の自動化と高度化が加速した
- ②:データ活用の価値が高まっている
- ③:人材不足への有効な対応策となる
①:業務の自動化と高度化が加速した
生成AI技術の進化により、これまで人間が時間をかけて行っていた文章作成やデータ整理、傾向の分析業務など、非常に多くの業務が自動化されつつあります。
従来の業務自動化は、定型作業やルールベースの処理が中心でしたが、生成AIの登場によって、判断やアウトプットをともなう業務まで自動化の対象が広がっています。これは業務の「スピード」だけでなく「質」そのものを引き上げる大きな変化だといえるでしょう。
例えば、営業支援SaaSでは、商談内容の自動文字起こしや要点の要約、顧客課題に応じた提案資料の自動生成が可能になっています。その結果、営業担当者は資料作成に追われることなく、顧客との対話や戦略設計に集中できる環境を実現でき、生産性向上に直結しています。
②:データ活用の価値が高まっている
生成AIは、大量かつ質の高いデータを前提に学習・推論を行う技術であるため、SaaSに日々蓄積される業務データの価値は、これまで以上に重要性を増しています。
単にデータを「保存する」だけでなく「活用できる状態で蓄積できているか」がSaaS選定における大きな分岐点となっています。適切なSaaS導入により、業務ログや顧客データ、コミュニケーション履歴などが一元的に蓄積され、AI分析の土台を構築することが可能です。
一方で、データ構造が整理されていないSaaSや、AI活用を前提としていない設計のツールでは、十分な成果を得ることが難しくなってしまいます。生成AI時代においては「今使える機能」だけでなく、将来的なデータ活用まで見据えたSaaS選定が求められているというわけです。
③:人材不足への有効な対応策となる
少子高齢化の進行により、多くの業界で人材不足が深刻化するなか、SaaSと生成AIの組み合わせは、人手不足を補う現実的かつ持続的な対策として注目されています。
生成AIを搭載したSaaSを活用することで、従来は複数人で対応していた業務を少人数で回せるようになり、限られた人員でも高い成果を上げることができるようになりました。特に、バックオフィスやサポート業務など、負荷が集中しやすい領域では、その効果は顕著です。
また、人材を単純作業から解放し、より付加価値の高い業務に集中させられる点は、従業員満足度や定着率の向上にも寄与します。このように、AI搭載SaaSは単なる効率化ツールではなく、経営課題としての人材不足を構造的に解決する手段として、大きなメリットを持っています。
AI機能搭載SaaSの具体的な活用事例
- 営業支援SaaSでの活用事例
- マーケティングSaaSでの活用事例
- カスタマーサポートSaaSでの活用事例
営業支援SaaSでの活用事例
営業支援の領域では、生成AIを活用した営業活動の効率化が急速に普及しています。具体的には、商談内容を自動で文字起こし・要約し、次回アクションや提案内容をAIが提示する機能が挙げられます。これにより、営業担当者は入力作業から解放され、顧客対応に集中できるようになります。
また、過去の受注データや失注データの学習によって、成約確度の高いリードをAIが抽出することで、営業効率や成約率の最大化にも貢献しています。
マーケティングSaaSでの活用事例
マーケティング分野では、生成AIによるコンテンツ生成と分析の自動化が進んでいます。例えば、メールマーケティングSaaSでは、顧客属性や行動履歴をもとに、最適な件名や本文をAIが自動生成します。これにより、担当者のスキル差に左右されず、安定した成果を出しやすくなります。
さらに、広告運用SaaSでは、広告文案の生成やA/Bテストの結果の分析をAIが行うことで、配信後のPDCAサイクルを高速化できる点が評価されています。
カスタマーサポートSaaSでの活用事例
カスタマーサポート領域では、AIチャットボットを活用した対応の自動化が進んでいます。FAQ対応だけでなく、過去の問い合わせ履歴を学習し、文脈を理解した高精度な回答が可能になっています。これにより、問い合わせ対応の一次受けをAIが担い、オペレーターは高度な対応に集中できます。
また、問い合わせ内容を自動分類・分析することで、プロダクト改善や顧客満足度向上につなげるなど、サポート業務を超えた価値創出も実現しています。
AI搭載SaaSを選ぶときの比較チェックリスト
| 比較軸 | 確認すべきポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| コスト | 初期費用・月額費用・追加費用のバランスは問題ないか? | □ |
| 機能性 | 自社業務に必要な機能が過不足なく搭載されているか? | □ |
| 拡張性 | 将来的な事業拡大や生成AI活用にも対応できるか? | □ |
| 使いやすさ | 現場担当者が直感的に操作できるUI/UXか? | □ |
| セキュリティ対策 | 情報漏えいや不正アクセス対策は十分か? | □ |
| サポート体制 | 初期設定や改善提案のサポートはあるか? | □ |
生成AI時代のSaaS選定においては、感覚や流行だけで判断するのではなく、これまで以上に企業の課題や目的に対する、機能の適合性が重要になります。複数の比較軸から冷静に検討することが重要です。
①:コストに関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| 初期費用 | 初期導入費・設定費用は発生するか? | □ |
| 月額費用 | 利用人数・利用量に応じた料金体系か? | □ |
| 従量課金 | AI利用回数やAPI利用で追加課金が発生しないか? | □ |
| 将来コスト | スケールアップ時にコストが急増しないか? | □ |
| 費用対効果 | 業務削減時間や人件費削減と見合っているか? | □ |
AI搭載SaaSのコスト評価では、単純な月額料金の比較だけで判断するのは非常に危険です。なぜなら、生成AI搭載SaaSでは、利用量に応じてコストが変動する構造を持つケースが多いためです。
特に注意すべきなのが、AI機能に関する従量課金です。文章生成回数、APIコール数、処理トークン数などが料金に影響する場合、利用が定着するほどコストが膨らむ傾向にあります。また、コストは「削減できる人件費や工数」とセットで評価する必要があります。単純なツール費用ではなく、業務削減時間・人員配置の最適化まで含めた費用対効果の視点で判断することが重要です。
②:機能性に関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| 業務適合度 | 自社の業務課題を直接解決できるか? | □ |
| AI機能の実用性 | 実務で使える精度やスピードか? | □ |
| AI機能の過不足 | 不必要なAI機能が多すぎないか? | □ |
| 業務カバー範囲 | 一部業務だけでなく全体最適につながるか? | □ |
| 業務判断への寄与 | AIの出力が意思決定や判断に活用できるか? | □ |
AI搭載SaaSにおける機能性の評価では「できることの多さ」ではなく「自社の抱えている課題や業務にどれだけフィットしているか」を冷静に判断することが最も重要な評価指標になります。
生成AI機能が豊富でも、業務フローと乖離している場合、現場では使われず形骸化してしまいます。特に注意したいのは「AIで何が自動化され、どこに人の判断が残るのか」が曖昧なツールです。また、機能が多すぎるSaaSは運用が複雑になりがちで、教育コストや定着率の低下につながります。ポイントは「業務課題 → 必要機能 → AI活用ポイント」の順で整理することが重要です。
③:拡張性に関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| 利用人数拡張 | 部署や拠点の追加に柔軟に対応できるか? | □ |
| 機能拡張 | 将来的な業務拡張に耐えられるか? | □ |
| 他ツール連携 | 既存SaaSや基幹システムとの連携は可能か? | □ |
| AI進化対応 | 今後のAI機能の強化が見込めるか? | □ |
| 活用の発展性 | 蓄積データを将来のAI活用に転用できるか? | □ |
SaaSは一度導入すると、簡単には切り替えられません。そのため、拡張性は「今すぐ必要かどうか」ではなく、将来の事業成長や組織変化に耐えられるかという視点で評価する必要があります。
特にAI搭載SaaSでは、今後のAIモデルの進化や新機能追加への対応力が重要です。現時点では十分でも、AI機能のアップデートが止まっているツールは、数年後に競争力を失う可能性があります。また、他SaaSや基幹システムとの連携可否も重要な要素です。データが分断されると、AI活用の精度や価値が大きく下がるため、API連携やデータ統合の柔軟性は必ず確認しておきましょう。
④:使いやすさに関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| UI/UX | ITに不慣れな社員でも直感的に使えるか? | □ |
| 学習コスト | 操作方法の習得に時間がかからないか? | □ |
| 現場定着 | 実際の業務フローに無理なく馴染むか? | □ |
| AI操作性 | 搭載されているAI機能が複雑すぎないか? | □ |
| 属人化リスク | 特定の人間しか使えない設計ではないか? | □ |
どれほど高機能なAI搭載SaaSでも、現場で使われなければ意味がありません。現場担当者の使いやすさや定着のしやすさは、SaaS選定において成果を左右する最重要指標のひとつだといえます。
特に生成AI機能は、操作が複雑になりやすい傾向があります。プロンプト入力が難解だったり、設定項目が多すぎたりすると、利用は一部の担当者に限定されてしまいます。重要なのは、ITリテラシーに差がある社員でも直感的に使えるかどうかです。トライアルやデモを通じて「説明なしでも使えるか」という視点で評価することが、定着率を高める大きなポイントになります。
⑤:セキュリティ対策に関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| データの所有権 | 自社データの帰属は明確か? | □ |
| AI学習利用 | 入力データがAI学習に使われないか? | □ |
| 認証と権限 | 多要素認証や権限管理が可能か? | □ |
| 第三者認証 | ISOやSOC2などの取得状況はどうか? | □ |
| 障害事故対応 | インシデント発生時の対応は問題ないか? | □ |
AI搭載SaaSでは、セキュリティ対策が従来以上に重要かつ繊細な項目になってきます。なぜなら、生成AIに入力されるデータには、顧客の個人情報や社内機密が含まれるケースが多いためです。
特に確認すべきなのが「入力データがAIの学習に使われるかどうか」というポイントです。意図せずデータが外部学習に利用されると、情報漏えいリスクやコンプライアンス違反につながる可能性があります。それ加えて、認証方式や権限管理、第三者認証(ISO、SOC2など)の有無も重要です。AI時代のSaaS選定では、使える機能以上にセキュリティやポリシーを重視する姿勢が求められます。
⑥:サポート体制に関するチェック
| チェック項目 | 確認ポイント | チェックボックス |
|---|---|---|
| 導入支援 | 初期設定やオンボーディング支援はあるか? | □ |
| 問い合わせ対応 | サポートの速度や対応品質は十分か? | □ |
| 日本語対応 | 日本語でのサポートが受けられるか? | □ |
| 運用支援 | 活用提案や改善アドバイスはあるか? | □ |
| 情報提供 | アップデート情報は適切に共有されるか? | □ |
AI搭載SaaSは、単に導入して終わりではなく、使いこなしてこそ初めてその真価を発揮します。そのため、サポート体制の品質は、導入の成否そのものを左右する重要な要素といえるでしょう。
特に、初期導入時のオンボーディング支援だけでなく、運用フェーズでの活用提案や改善アドバイスが受けられるかどうかは大きな差になります。また、問い合わせ対応のスピードや日本語サポートの有無も、現場のストレスに直結します。AI搭載SaaSほど、単なる「ツール」ではなく、継続的な情報提供と伴走支援がある「パートナー」としての支援体制を重視すべきです。
AI搭載SaaSで高評価を受けやすい機能の特徴
- ①:安心して社内のデータを預けられる
- ②:業務フローの一部を代替してくれる
- ③:すでにあるデータを活用してくれる
- ④:操作がシンプルで使いやすい
- ⑤:失敗しても修正が効きやすい
①:安心して社内のデータを預けられる
高評価を受けやすい生成AI機能の1つ目の特徴としては「安心して社内データを預けられるAIである」というものが挙げられます。
入力した情報がどこに保存されるのか、外部に送信されるのか、学習データに使われるのかなど、ルールが明確に示されているほど、利用者は安心して業務データを預けることができるようになります。
また、アクセス権限の制御や公開範囲の設定・管理、ログの記録やトラブル発生時の証跡管理など、すでにある社内のセキュリティポリシーとの整合性が取れていることも重要な要素といえるでしょう。
②:業務フローの一部を代替してくれる
高評価を受けやすい生成AI機能の2つ目の特徴としては「業務フローの特定の一部を代替してくれる」というものが挙げられます。
例えば、議事録の作成や定型メール文の作成、レポートの下書きやデータの入力など、人間が行うと時間がかかってしまう判断価値の低いタスクを、AIが代わりに実行してくれるというイメージです。
人間が本来すべき作業に集中できるよう、どこまでの作業をAIが担当し、どこから先を人間が引き継ぐのかが明確になっている機能ほど、現場からの信頼と満足度が高くなりやすい傾向にあります。
③:すでにあるデータを活用してくれる
高評価を受けやすい生成AI機能の3つ目の特徴としては「今ある情報資産をどれだけ引き出せるか」というものが挙げられます。
評価されるAI機能は、新たなデータ収集を強要するのではなく、既存の顧客情報や過去の案件履歴、マニュアルやチャットログなど、社内やシステム内に存在するデータをうまく活用してくれます。
逆に、データの準備やタグ付けに多くの手間がかかる仕組みは、導入効果が見えにくく、評価されにくくなります。個別事情に即した提案を行ってくれると、現場は「わかっているな」と感じるのです。
④:操作がシンプルで使いやすい
高評価を受けやすい生成AI機能の4つ目の特徴としては「ユーザーの迷いを最小限にしたUI/UX設計」というものが挙げられます。
いくら優れたAI機能であっても、操作が難しければ利用頻度は上がりません。入力欄がわかりやすい、専門用語を多用していないなどは、ITリテラシーに差がある組織でも広く使われやすくなります。
また、ボタンの数が必要最小限であることも高く評価される要素のひとつです。マニュアルを深く読み込まなくても、触っているうちに使い方を理解できるかどうかが、満足度を大きく左右します。
⑤:失敗しても修正が効きやすい
高評価を受けやすい生成AI機能の5つ目の特徴としては「まずはAIにやらせて気になる部分だけ直す」というものが挙げられます。
AIは必ずしも毎回完璧な結果を出すわけではありません。評価されるAI機能ほど、失敗を前提とした余白のある設計になっており、出力結果を簡単に修正・再生成・上書きできるようになっています。
例えば「もう少し丁寧な言い回しに」や「文末の表現だけ変えて」などの抽象的な指示で出力を調整できたり、AIの提案をそのまま編集できたりする仕組みがあると、安心して使い続けることができます。
まとめ
本記事では、生成AI時代におけるSaaS選定の考え方の解説に加えて、AI搭載SaaSを比較するためのポイントや導入時に注意すべき観点を実務目線で徹底的に解説していきました。
AI搭載SaaSは、業務の自動化や高度化、データ活用の推進や人材不足への対応といったさまざまなメリットをもたらす一方で、選定を誤ってしまうと損失効果も大きいツールです。
そのため、コスト・機能性・拡張性・使いやすさ・セキュリティ・サポート体制といった複数の比較軸から、自社の状況に即したチェックリスト評価を行うことが不可欠になります。
本記事を参考に、自社の業務課題と将来像に合ったAI搭載SaaSを見極め、生成AI時代における競争力強化につなげてみてはいかがでしょうか?