少子高齢化によって生産年齢人口は減少の一途をたどり、さらに働き方改革法案の施行によって社員の労働時間も上限規制がかかるようになりました。このような環境下で人手不足に苦しむ企業が増加している中、注目されているのが、マクロやRPA、AIを活用した「業務の自動化」です。一方で、それぞれがどのような特徴を持っているのか、どのような業務に向くのか、自社で自動化を検討している業務にはどれを選択すればよいのか、よく分からないという企業も多いのではないでしょうか。
ここでは、自社の業務の自動化を検討している方のために、業務の自動化の方法や事例、自動化方法の選定ポイントについて説明します。業務を自動化するにはどのような方法があるのか、マクロとRPA、AIはどう違うのか、しっかり把握して自社に合ったツールを選び、業務の改善につなげましょう。

1. 業務自動化の必要性

 近年、多くの企業で人手不足が深刻化、採用活動や賃金などに大きな影響を与えています。さらに、総務省「平成29年版 情報通信白書」では我が国の人口の推移として、15~64歳の生産年齢人口が減少を続けることが示されており、今後も人手不足の傾向は続くことが予想されています。

(出典)2015年までは総務省「国勢調査」(年齢不詳人口を含む)、2020年以降は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成24年1月推計)」(出生中位・死亡中位推計)
引用元:https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h29/html/nc135230.html

 生産年齢人口の減少に加えて、育児や介護との両立を求める人が増加するなど労働者のニーズは多様化、過大な残業時間など労働者の労働環境の改善も求められています。これらの課題を解決しながら生産性を高め、経済を改善させるための対応として、日本政府は2019年4月1日から「働き方改革関連法」を施行しました。大企業では2019年4月から、中小企業では2020年4月から、従業員の残業時間に罰則付きの上限規制がかけられることになり、企業は従業員の労働時間を削減しながら生産性を高めることが求められています。

 この対応として有効な手段が、業務の自動化です。定型業務を正確に繰り返すことを得意とするロボットやAIと、状況に応じて柔軟に判断しながら業務を推進できる従業員、異なる得意分野を持った両者が、それぞれの特性を活かせる業務に注力することで、「残業時間の削減」と「業務効率の向上」を同時に実現することが可能となります。

2. 業務を自動化する方法(マクロ、RPA、AIの違い)

 業務の自動化を検討するにあたって、よく聞かれるキーワードとして「マクロ」「RPA」「AI」の3つが挙げられます。まずは、それぞれの機能と適用業務について見ていきましょう。

(1)マクロ

 マクロとは、Microsoft OfficeなどのOfficeソフトに標準搭載されている自動化技術で、Excel等の入力・集計作業の効率化の手段として利用されています。VBA(Visual Basic for Applications)というプログラム言語でプログラミングすることによって、複雑な処理も対応できる一方で、「マクロの記録」という機能を使うことでプログラムが生成されるため、簡単な処理であればプログラミングスキルが低いユーザーでも繰り返し処理を自動化することが可能となります。プロでもアマでも使える機能として、1990年代から現在に至るまで使われ続けています。
 ボタン一つクリックするだけで、Excelのデータからグラフや表などを入れた報告用資料の原型を作ったり、Excelで作った宛先リスト全件にOutlookからメールを送信したり、といった使い方ができます。勤怠管理システムから出力したテキストファイルやCSVファイルを、Excelの人事情報と突き合わせて管理職は残業をゼロ扱いして給与システムで給与を算出するためのデータに変換する、といった処理を行う事も可能です。複雑な処理もVBAによるプログラミングで自動化が可能であることはメリットですが、実現するためには相応のITスキルが必要となること、自動化の対象は基本的にWord やExcel、PowerPoint、OutlookなどのOfficeアプリケーションに限定されること、といったデメリットもあります。

(2)RPA

 RPA(Robotic Process Automation)は、「ロボットによる処理の自動化」と訳され、人間がPC上で行う操作を記憶して実行する技術を指します。人間を補完して業務を遂行するため、「デジタルレイバー(仮想知的労働者)」と呼ばれることもあります。業務フローを作成するような画面上の設定で作業の手順を事前に定義しておき、処理を実行すると、定義された手順に沿って作業が自動的に行われます。RPAは日本では2015年~2016年あたりから注目されるようになり、近年はツールの種類も広がってきています。RPAのツールがリリースされたのは、アメリカでは2000年代前半が多く、日本では2013年に国産製品として代表的な「WinActor」がリリースされました。
 RPAツールで処理が特定の時間に実行されるようにスケジュールしておくと、定義された処理を自動的に実行してくれます。例えば、特定のWebサイトで自社製品を検索して市販価格のリストを作成したり、クラウドシステムから社内の業務システムにデータを転記したり、といったPC上で行う作業を、アプリケーションの制約なく実行することができます。

引用元:https://winactor.com/product/WinActor

 上図のイメージのように業務フローや画面上の設定で処理を自動化できるため、RPAはプログラミングスキルを必要としないのが特徴です。注意点としては、順調に稼働するようになるまでは試行錯誤の連続で意外と手間がかかることです。例えば、特定のフォルダやファイルを使用する処理では、フォルダ名やファイル名が微妙に変わったり、他の人がファイルを開いていたりといったことによって処理が止まってしまうこともあるため、運用ルールの整備や遵守の徹底が必要となります。また、特定のWebサイトや業務システムを扱う場合、レイアウトや入力欄の仕様が変わると誤作動や処理停止につながるため、仕様変更に対応してRPAの設定変更を行うメンテナンスも必要です。対象業務の選定では、頻度が高い、あるいは作業量が多い業務、これらに加え技術を必要としない単純な作業など、自動化効果の高い業務を選ぶことが重要です。

(3)AI

 AI(Artificial Intelligence)は、「人工知能」と訳され、機械学習深層学習(ディープラーニング)といった技術によってデータから学習することや、学習した情報を基に自ら考えて判断することができる存在です。AIの概念は1950年代から存在しますが、近年になってコンピュータの処理能力が高まったこと、ビッグデータが普及したこと、さらに先述の機械学習や深層学習の技術が発展したことにより、大きく発展しました。
 今回、マクロやRPAと比較していますが、実はAI自体に業務を自動化する機能はありません。自動化のために活用する場合は、一般的にRPAと組み合わせたシステムとして、RPAの処理の中で必要となった判断処理にAIを使う、という方法が取られます。例えば、手書きの申込書を読み取って記載内容をデータ化してデータベースに転記するような業務をRPAで自動化する場合、どうしても人によって癖の異なる手書きの文字を正確に読み取るということは困難です。そのため、読み取りの処理の中で光学文字認識機能(OCR)にAI技術を取り入れた機能(AI-OCR)を活用し、文字をAIが判定・学習しながら読み取ることで高い識字率を実現するといった使われ方をします。

3. RPAによる業務自動化事例

業務の自動化、および効率化の実現の参考として、2つの事例を紹介します。

(1)事例①:異動時の職員情報の入力手続きの自動化(経済産業省)

 経済産業省では、人事異動や担当事務変更などの情報を人事院が運営管理する「人事・給与システム」へ登録する作業を手作業で行っていました。経済産業省本省の職員約4,000人の中で、毎年約1,300人が異動し、兼務などを含めると「人事・給与システム」の登録件数は年間2,000件と膨大な件数になります。登録作業は、人事異動の都度、作業が必要になるため、定期的に作業が発生すること、ピーク時には数人がかりの作業になること、単純作業であるがミスが許されないこと、などの理由からRPAの適用が有効と判断され、RPAツール「BizRobo! Mini」が導入されました。
 従来、同省では確定した人事情報をExcelファイルで管理しており、これを担当者が確認した後、職員が手入力で「人事・給与システム」へ登録し、辞令を作成していました。この「人事・給与システム」への入力作業について、まずは管理職級職員を対象とした約900件のデータを対象にRPAによる代替を行った結果、1件の登録で10分、900件で150時間の削減につながり、作業を行っていた職員は他の業務充てる時間を創出できるようになりました。手入力の時に発生していた転記のミスもなくなり、辞令交付前の確認にかかる負担も軽減されたといいます。

引用元:内閣官房内閣人事局「霞が関働き方改革推進チーム 平成30年度 議論の成果https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_hatarakikata/kasumigaseki_kaikaku_dai4/h30_giron_seika.pdf

 人事情報のExcelファイルは、人が登録することを想定していたため項目の分類が厳密ではなく、自由記入欄や未記入も許容されていましたが、そのままではRPAツールで処理する場合はエラーの原因となります。この対応として、導入に先立ってExcelファイルの様式をRPAツールが処理しやすい形式に変更し、データを修正する準備作業を行った上で処理が実行されました。Excelファイルが新しい様式で運用されるようになれば、形式の変更やデータの修正が不要となるため準備作業も不要となり、「人事・給与システム」への入力作業に充てていた時間の全てを他の業務に振り向けることができるようになると見込まれています。

(参考)https://rpa-technologies.com/case/case021/

(2)事例②:FAX送信業務の自動化(株式会社ウェルクス)

 株式会社ウェルクス(従業員262名、資本金1,200万円)は、台東区で保育士や栄養士の人材紹介を行う企業です。登録された保育士に希望の勤務地や条件などの聞き取りを行った上で条件に合う求人があれば紹介しますが、なかった場合は条件に合う施設にFAXを送信し、施設からの問合せを受けて面接につなげています。
 従来は、求職者のリストと条件を基に、事務員1名が表計算ソフトを使って数十項目の条件設定を行ってFAXを送信していました。条件設定には、送付するべき事業所の種類(保育園、幼稚園、託児所)、送付先に含める市町村、さらに送付NGな事業所はあるか、といったものがあり、求職者ごとに10回近くのフィルターを行って事業所を絞り込むという単純かつ大量の作業が必要です。作業時間は1件につき平均10分程度かかり、1月で1,042件の処理が必要で、毎月約174時間、フルタイム従業員1名の月間労働時間に匹敵する作業量があります。しかし、大量な単純作業にやりがいが見いだせず、従業員が退職してしまい、その後、社長自らが担当するも、毎日4時間の時間を作業に費やす深刻な負担となりました。
 この対応として、RPAツール「Robostaff」が導入されることになり、月174時間を必要とするFAX送信の一連の作業を自動化、社長の負担も大幅に軽減されました。これまで時間を捻出できず、実施できなかった各グループの責任者との定期的なミーティングも実現し、その影響もあってRPAの導入後、同社の売上高は2.5倍に増加したといいます。

 その後、同社では勤怠情報の修正、個人情報の削除処理等へとRPAの導入を拡大し、さらに営業支援システムや顧客管理システム、会計システムとの連携などにも活用していく構想を持っています。

(参考)https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H30/h30/html/b2_4_4_2.html
https://seleck.cc/782

4. 業務を自動化する方法の選定のポイント

 これまで、主に機能的な面からマクロ・RPA・AIについて見てきました。選定においては、さらに導入コストや必要なITスキルなども考慮して検討する必要があります。

(1)導入にかかるコスト

 マクロはOffice製品の標準機能であるため、ソフトウェアとして追加の費用は発生しません。VBAのプログラミングができる社員がいれば、外部に支払う費用を抑えることができます。
 RPAは、ツールによって料金体系は異なり、年間50万円くらいから利用できる製品もありますが、年間コスト100万円前後の製品が多いです。
 AIの場合、AIそのものを開発するためにはPythonなどのプログラム言語による本格的なシステム開発やAIに学習させるための大量データを準備する必要があります。コストは実現する機能や規模によって異なりますが、数百万円のコストは想定しておく必要があるでしょう。

(2)必要なITスキル

 マクロでは、先に述べた通り、複雑な処理もVBAによるプログラミングで自動化することが可能ですが、実現するためには相応のITスキルが必要となります。
 RPAでは、業務フローや画面上の設定で処理を定義できるため、プログラミングスキルを必要としません。
 AIではシステム開発に加え、開発後も常時検証と改善を繰り返す必要があり、高いITスキルが必要となります。

(3)マクロ・RPA・AIの比較

 最後のまとめとして、下表にマクロ・RPA・AIの違いを整理します。自社で自動化を検討している業務に含まれる操作が、Officeソフトのみの操作であればマクロ、Office以外のPC操作も含まれるのであればRPAを検討するのが基本です。さらに、RPAの方が求められるITスキルは低いこと、コストは自社で対応できるのであればマクロが安いことなども考慮して、総合的に判断するのが良いでしょう。

マクロ RPA AI
自動化の範囲 Office上の操作 PC上の操作 特定の判断処理
対応可能な処理の複雑さ
必要なITスキル
導入期間 1日~1週間 1カ月~数カ月 数カ月~数年
導入コスト 0円~ 50万円~/年 数百万円~

 人手不足解消の一手として、注目されている「業務の自動化」についてマクロ、RPA、AIを紹介してまいりました。「自動化」という目標は同じでも、ツールとしては明確に異なることをご理解いただけたと思います。
 「自動化」という心地よい言葉に、あれもこれもと対象業務が増えてくことがよくありますが、最近では作っても使われずに放置されている「野良ロボット」が増えており、「業務の自動化」に踏み出せない方も多くいます。
 導入に際しては、現在の業務の中でロボットが得意な業務はどの部分か?を見定め、それに適したツールを選定しましょう。

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