給与計算は、労務管理の中でもミスが許されない業務の1つです。給与は従業員の生活に直結しているため、担当者は細心の注意を払い業務にあたる必要があります。

しかし給与計算では社会保険料や所得税を考慮する必要があり、残業計算でも複雑な計算が求められます。当然ヒトの手によって行われる作業ではミスが発生してしまいます。そこで今回は、給与計算のミスに関わる原因および対処法について解説します。

給与計算のミスでよくあるケース

給与計算のミスでよくあるケースは、以下の5つです。

年齢や異動、変更に伴うもの

雇用形態や基本給の変更は、給与への反映が必要です。パートから社員への変更、定年による雇用契約の変更、昇進に伴う昇給などでは基本給および社会保険料、所得税などを見直す必要があります。自社で決められた役職手当や資格手当、家族手当などが発生することもあるため、就業規則や賃金規定などもチェックしなければミスにつながります。

また、介護保険料の徴収も間違えやすい項目です。介護保険料は40歳以上65歳未満が対象になりますが、40歳になる前日の月から適用されます。たとえば10月1日生まれの従業員の場合、9月分の給与から徴収開始となります。

従業員の家族構成や家族の収入に増減があった場合も要注意です。所得税は扶養家族の年齢や人数に応じて控除額が決まります。たとえば、子供が社会人になった場合や父母が70歳に到達した場合などです。控除額が変更になると徴収する所得税も変わります。

有給、残業の計算

勤怠データが適切に管理されていない場合は、有給休暇と残業計算にも間違いが発生します。残業の割増賃金についても、法定時間内残業や法定時間外残業、休日労働、深夜残業などそれぞれ違った割増率で計算する必要があります。フレックスタイム制や夜間中心の仕事になると、よりいっそう残業計算が複雑になります。

年次改定および法改正

社会保険や住民税などは、毎年決まった時期に改定されます。健康保険料率や介護保険料の変更、住民税の変更、算定基礎届による社会保険料の変更はすべて別の月に改定されます。年間スケジュールの管理がされていない場合、適用漏れが発生します。

また、労働基準法をはじめとする法改正にも注意が必要です。たとえば2023年4月からは、中小企業の月60時間を超える割増賃金率が引き上げられます。今後も法改正は繰り返し施行されるものなので、情報収集を怠るとミスにつながるでしょう。

日割り計算

月途中の入社や退職、休職などでは給与の日割り計算が発生します。基本給の按分だけであればそれほど難しくはありませんが、手当の中には日割りから除外すべき項目があります。これらは企業ごとの賃金規定に定められているため注意が必要です。

また社会保険料の扱いも要注意です。社会保険料は日割り計算を行わず、資格喪失日が属する月の前月までを徴収します。たとえば4/15退職の場合は資格喪失日が4/16になるため、3月分までが対象です。しかし4/30に退職した場合は資格喪失日が5/1となり、4月分までが徴収対象です。

イレギュラーでの支給

給与では臨時の賞与や祝い金、テレワークによる補助、インフレ手当などイレギュラーな支給が発生します。その際、支給する手当が課税対象なのかどうか注意が必要です。課税・非課税を取り違えると所得税や住民税に影響が出ます。

給与計算でミスが発生する原因

ミスが発生する原因としては、以下のようなものがあります。

知識、スキルの不足

給与計算担当者は、給与に関わる基本ルールを理解しておかなければいけません。社会保険や税金だけでなく、労働基準法や年金制度、社内規定など幅広い知識が求められます。とくに勤怠管理や給与計算などを手作業で行っている場合、スキル不足は大きなミスを招いてしまいます。

数人による分業制

一般的な企業では、給与に関わる業務は複数名で行います。入力すべきデータは定期的なものから随時発生するものまで多岐にわたるため、入力漏れが発生しやすくなります。1名だけの給与担当なら体系的に全体を見渡せますが、分業制だと把握できる範囲が狭くなり、入力漏れ自体に気付かないことがあります。

過密な業務

給与計算は業務が幅広いため、スケジュールが過密になりがちです。従業員に給与を支払う日は毎月決まっているため、土日や祝日が続くとさらに短い期間に詰め込んでの作業になります。効率的に進められる体制でなければミスにつながります。

給与計算でミスが発生した際の対処法

ミスが発生した場合の対処法は、以下のとおりです。

従業員への説明及び謝罪

まず行うべきは従業員への説明と謝罪です。ミスが発生した原因を明らかにし、いつ精算するのか説明しなければいけません。会社に対する信頼が損なわれないよう、給与担当者はすみやかに対応する必要があります。

精算

支給額が不足していた場合は、即時に精算しなければいけません。賃金の支払い方法については、労働基準法第24条に「全額支払いの原則」が記されており、給与日よりあとに支払うのは違法になります。不足が判明した時点で精算を済ませて、受領印も受け取りましょう。

給与計算でミスをしないための方法

給与計算でミスをしないためのポイントは3つです。

業務の体制を見直す

まず業務の体制を一から見直してみましょう。分業制であれば、行うべき作業を細かく洗い出して業務フローを作成します。そこに各担当者を割り振れば、誰がどこまでの業務を行うのか全員で把握できるようになります。給与計算だけでなく、年次改定や各種の変更届なども同じ担当者にすれば、入力漏れが発生しにくくなります。

また、給与計算の元となるデータもルール化しましょう。たとえば従業員データは更新するタイミングを決めるなどして最新状態を保持する仕組みが必要です。勤怠データについても、集計前後のチェックや最終チェックを行いミスが発生しにくい業務フローを整備しましょう。

チェックリストを作る

知識やスキルを補完するには、チェックリストの活用がおすすめです。項目としては年間スケジュールに沿ったもの、入社や退社で必要なもの、年齢に関わるもの、扶養変更や異動に関わるものまで細かくリストアップします。リストを用いて第三者によるチェックを行えば、より一層ミスが発生しにくくなります。

給与計算ツールを活用する

最も効果的な方法が給与計算ソフトの活用です。ツールを使えば、複雑な計算部分は全て自動で行えるようになります。最新の税率や社会保険料、年齢などが全て反映されるため、担当者はその他の異動やイレギュラーで発生する項目に集中することができます。また、勤怠管理システムから給与計算ソフトにデータ連携を行えば複雑な残業計算も不要です。専門知識が補完されるだけでなく、業務効率化にもつながります。

ツールを活用してミスのない給与計算を!

給与計算は労務管理のなかでも正確性が求められる業務です。一方で、給与には社会保険料や税金、残業などさまざまな要素が含まれるため、複雑な計算を行わなければいけません。ミスを発生させないためには、給与計算ツールの活用がおすすめです。

給与計算ツールを使えば税制や法改正などが自動で反映されるため、知識不足でもミスが起こりにくくなります。チェックにかける時間も軽減され、業務効率化にもつながります。気になる方はぜひ試してみてください。

この記事の執筆

キサラ

ライター歴5年。IT、ビジネス、会計、その他ライフスタイルのジャンルも執筆しています。「読まれる記事」を書くことをモットーに活動中。

この記事の監修

ITreview Labo編集部

ITreviewの記事編集チーム。ITreviewの運用経験を活かし、SaaSやIT製品に関するコンテンツをお届けします。

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