2019年に施行された働き方改革は、「人々が多様な働き方を選択できる社会」の実現に向けて進められている法案です。掲げられたテーマはいくつかあり、すでに長時間労働の上限、有給休暇取得の義務づけ、残業の割増賃金引上げなどが施行されています。

そのなかで次のステップとなるのが「年金制度改正法」です。年金制度改正法とは国民年金法を改正するための法律で、ひと言でいうなら社会保険の加入や公的年金の受給に関わる要件が変更されるというものです。

日本の年金制度は非常に複雑なため、一般の人には分かりにくい仕組みです。しかし法律の改正は企業で行われている労務関係の業務にも大きく影響します。そこで今回は、年金制度改正法の概要と押さえるべきポイント、労務管理システムについて詳しく解説します。

年金制度改正法が施行される目的と概要

年金はあらかじめ保険料を納め、一定の年齢になれば給付を受けとれる社会保障制度の1つです。老後や事故など、将来のリスクに備えて「社会全体で支える」ことを基本として作られています。

しかし現在日本では少子高齢化が進み、保険料を納める労働人口は減少の一途です。これまでの年金制度では、将来、高齢者になる世代を支えきれないということが見え始めています。そこで、長期化する高齢期の経済基盤を充実させるために、年金制度の改正に至ったのが大まかな経緯です。

またもう1つの要因としては、健康寿命が伸びて働く高齢者が増えたことや女性の社会進出も影響しています。厚生労働省によると、今後の社会変化について「より多くの人がこれまでよりも長い期間にわたり多様な形で働くようになることが見込まれる」としており、年金制度改正法にそれらが反映されていると説明しています。

年金制度改正法のポイントは4つ

年金制度改正法のポイントは以下の4つになります。

ポイント1.社会保険の適用範囲拡大

現行の制度では、アルバイト・パートなどの短時間労働者が社会保険に加入する要件は、事業規模が501人超であることとされています。2022年10月に101人超の事業所に変更され、2024年10月には50人超の事業所になります。

ポイント2.在職中における年金受給の仕組みの見直し

現行の制度では、60歳から65歳までの人が働いた場合、賃金と厚生年金の合計額が月28万円を超えると超過分の年金支給が停止される仕組みです。2022年4月以降は、月47万円へと緩和されます。

さらに在職定時改定が新設されたことで、在職中の65歳から70歳の老齢厚生年金受給者は、年金額が毎年10月に改訂されるようになり、それまで納めた保険料が年金額に反映されます。これにより、長く働いた人ほど多くの年金を受け取れるようになります。

ポイント3.受給開始時期における選択肢の拡大

現行の制度では、公的年金の受給開始年齢は原則65歳で、希望すれば60歳から70歳の間で自由に設定できます。2022年4月の改正により、受給開始時期の繰り上げ上限が75歳までに引き上げられます。

ポイント4.確定拠出年金における加入可能要件の見直し

2022年4月より、私的年金である「確定拠出年金」にも改正が行われます。確定拠出年金には企業型と個人型の2種類があり、現行では企業型が65歳未満、個人型は60歳未満が加入要件です。これが見直され、企業型は70歳未満、個人型は65歳未満へと引き上げられます。企業型は掛金が会社負担であるため、高齢者を雇用する企業は注意が必要です。

年金制度改正法より労務管理の負担は増加へ

今回の年金制度改正法は、労務管理の面で大きな負担となることが予想されます。とくに大きいのが、申請や手続きにまつわる業務です。2022年10月に施行予定の社会保険の範囲拡大では、これまで対象ではないとされていた中小企業も要件に合えば対象になります。また、パートやアルバイトの雇用が多い企業では、膨大な人数の申請手続きが必要です。従業員によっては社会保険への加入を希望しないことも考えられるため、勤務形態や雇用の再契約等で労務全体の負担は増大するでしょう。

もう1つの大きな負担が、改正に沿った環境整備です。時短労働者や高齢者にとって働きやすい環境を整えるため、勤務形態の新設やルール変更等が発生する可能性があります。また新たに社会保険や確定拠出年金に加入する従業員については、給与計算への反映も必要です。

労務管理ツールで年金制度改正への備えを!選定のポイントは?

年金制度改正法へ向けて、企業が取り組むべき課題は労務管理の効率化になります。それを実現するためにおすすめなのが労務管理ツールです。改正に向け導入を検討する際は、以下の機能が選定のポイントになります。

従業員情報の一元管理

従業員の情報や勤務形態を一元管理することで、社会保険・確定拠出年金に加入できる対象者をすぐに抽出できます。年齢などをリアルタイムに管理することで、将来的な企業の保険負担額も予測しやすくなります。

ワークフロー

ワークフロー機能によって、電子申請が可能となります。法改正で発生する資格取得届の手続きが軽減され、社内における業務プロセスの見直しにもつながります。

他システムとの連携

契約上は社会保険の対象外であっても、勤務の実態によっては社会保険への加入が必要になることがあります。勤怠管理システムとの連携が可能であれば、常に正確な労働時間を管理できます。

ITreviewで労務管理システムを探してみよう

今回解説したように、社会保険の適用範囲については2022年10月に施行されたあと、2024年10月にも拡大される予定です。さらに育児・介護休業法や雇用保険法も改正が予定されており、今後も労務管理はさらに複雑になることが予想されます。

そこでおすすめしたいのが労務管理ツールです。ツールを利用することで、法改正への対応はもちろんのこと従来の労務管理の生産性も向上します。導入を検討している方は、「ITreview」で詳細情報を確認し、自社に合ったツールを検討してみてください。

参考:年金制度改正法(令和2年法律第40号)が成立しました|厚生労働省

この記事の執筆

honyakuma

ライター

システム会社勤務のサラリーマン。これまで物流、バックオフィス系のシステムに従事。「ITをわかりやすく」をモットーにWEBライターとして活動中。

この記事の監修

ITreview Labo編集部

ITreviewの記事編集チーム。ITreviewの運用経験を活かし、SaaSやIT製品に関するコンテンツをお届けします。

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