勤怠管理は、企業が従業員を雇用する上で重要な業務です。労働基準法の改正が繰り返されるなか、より正確な管理体制が求められています。
しかしながら勤怠管理はただ出勤・退勤、休暇を記録すれば良いというものではなく、定められた法律に沿って行うことが重要です。そこで今回は、勤怠管理に関わる法律やルール及び、違反した場合のリスク、勤怠管理システムについて詳しく解説します。
勤怠管理を行う目的とは
勤怠管理を行う目的には以下のようなものが挙げられます。
法律による義務付け
労働基準法では、企業は従業員の労働時間を適正に把握する義務があると定められています。労働時間の上限を「1日8時間、週40時間まで」(第32条)として、それを超える場合は企業と従業員の間で書面による労使協定を締結し、協定書面を労働基準監督署に提出しなければいけません(第36条)。また労働基準法では、法定三帳簿と呼ばれる「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿」の作成・保管も義務付けられており、5年間の保管が必要とされています(第107、108条、109条)。
労働者の過剰労働を阻止
自己申告制など適切な勤怠管理が行われていない環境では、実際の勤務時間と出勤簿の内容が乖離する可能性があります。過重労働には特定の従業員への業務集中やサービス残業、不要な残業の常態化などさまざまな要因があります。人件費という点においても、企業が正確な労働時間を把握することは重要です。
労使トラブルの回避
社会全体で働き方改革が進む一方で、メディアなどでは依然として長時間労働や残業代未払いの問題などが取り上げられています。とくに残業代については、企業側が正確な労働時間を把握できず未払いに気付かないこともあります。労使トラブルに発展すると、賠償責任問題や企業イメージ低下などにつながります。
従業員の健康維持
適正な労働時間や有給休暇の取得は、従業員の健康を維持する上で重要です。業務の一極集中を回避し適切な業務配分を行うことで、社員満足度が向上します。また一人ひとりのモチベーションが上がれば企業全体の生産性アップにもつながります。
健全な経営の証明
適切な勤怠管理は、企業が法律やルールを守っていることを意味します。労働時間や賃金における透明性が確保されることで、コンプライアンスを遵守した健全な経営ができていることの証にもなります。企業イメージが上がれば、従業員の定着率向上や将来の就職希望者へのアピールにつながります。
勤怠管理で定められている法律とルール
勤怠管理における法律やルールには以下のようなものがあります。
36協定の締結
労働基準法では、原則として1日8時間、週40時間以内を法定労働時間と定めています。これを超えた時間外労働(残業)や休日出勤を行う場合は、36協定の締結が必要です(第36条)。36協定は労働組合などの労働者側と企業側で書面での取り交わしとなります。また所轄内の労働基準監督署に届出も必要となり、提出されて初めて有効となります。
合わせてチェック:2023年4月から始まる36協定の改正ポイントとは?
労働時間の客観的な把握の義務
2019年4月1日に施行された労働安全衛生法の改正で、労働時間において客観的な方法で把握することが義務付けられています。客観的な方法とは自己申告や手書きによる出勤簿ではなく、タイムカードやPCの起動時間など、第三者から見ても正しいとわかる記録を指します。フレックス制や変形労働時間制を採用する場合も同様に義務が課されます。
残業時間の上限規制
労働基準法によって残業時間は原則「月45時間」「年360時間」の上限規制が設けられています。働き方改革の一環として施行された法律で、2019年4月より大企業、2020年4月には中小企業にも適用されました。また臨時的な特別の事情がある際も、以下を遵守しなければいけません。
・ 時間外労働が年720時間以内(臨時かつ労使が合意した場合)
・ 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満(臨時かつ労使が合意した場合)
・ 時間外労働と休日労働の合計について、「2か月平均」「3か月平均」「4か月平均」「5か月平均」「6か月平均」が全て1月あたり80時間以内
・ 時間外労働が月45時間を超えることができるのは、年6か月が限度
引用:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
年次有給休暇の取得義務
2019年4月1日の働き方改革関連法により、年間10日以上の有給休暇が与えられる労働者には年次有給休暇を5日以上取得させることがルール化されています。また有給休暇を正確に管理するため「年次有給休暇管理簿」を作成し、期間満了後3年間の保存が必要です。これは正社員に限らず、アルバイトやパートなど有給休暇が付与される全ての従業員が対象となります。
参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説|厚⽣労働省・都道府県労働局・労働基準監督署
勤怠管理のルール違反による企業側のリスク
適切な勤怠管理が行われていない場合、企業にはさまざまなリスクが伴います。
労働基準法などの違法に伴う罰則
労働基準法において、企業は労働者の労働日数、労働時間、休日労働時間、時間外労働時間、深夜労働時間などを賃金台帳に適正に記入することが義務付けられています。これらの記入がされていない場合、もしくは虚偽の記入を行った場合、30万円以下の罰金刑が科されるおそれがあります。また法定通りの有給休暇を与えていない場合は、6か月以下の懲役又は30万円以下の罰金が科される可能性があります。
残業代未払いの遡及支払い命令
客観的な勤怠管理が行われていない場合、労働時間の実態と賃金台帳に記入された内容が必ずしも同じとは言えません。虚偽の報告があった際は、残業代の未払いとして訴訟問題に発展する可能性があります。厚生労働省の報告によると2019年には1,611社の企業に対して100万円を超える是正指導が行われており、1企業あたりの割増賃金額は平均611万とされています。
参考:監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成31年度・令和元年度)|厚生労働省
企業ブランドの低下
労働基準監督署からの是正勧告や残業代未払いによる訴訟問題が明るみになった場合、企業ブランドは大きく低下すると言えるでしょう。取引先だけでなく、従業員の定着率や新たな人材の採用などへの影響も避けられません。社会からの信頼が失われ、経営そのものにリスクを伴います。
適切な勤怠管理を行うには?
勤怠管理にはいくつかの方法があり、特徴は以下のようになります。
記録方法 | メリット | デメリット |
手書き | ・1枚の紙に出勤、退勤、休憩、残業、遅刻、早退、休日など全て記入可能・特定の機器が不要 | ・集計に手間がかかる・不正申告、紛失、サービス残業などのリスク |
Excel管理 | ・出勤、退勤、休憩、残業、遅刻、早退、休日など全て入力可能・紙に比べて集計がしやすい | ・フォーマットの準備・不正申告、紛失、サービス残業などのリスク・PCの準備 |
タイムカード | ・正確な労働時間の把握 | ・集計に手間がかかる・休日や打刻漏れで一部手書きが発生・打刻機の準備・(第三者による)不正打刻のリスク・紛失のリスク |
PCの起動時間 | ・正確な労働時間の把握・集計しやすい | ・休日などは別で管理する必要がある・PCの準備・所属部署によっては管理できない |
勤怠管理ツール | ・正確な労働時間の把握・オンライン上で客観的な管理が可能・給与・会計システムへの連携が可能・改ざん、不正の防止・労務管理の効率化、コスト削減 | ・機器(ICカード、指紋認証機など)の準備・導入コスト |
それぞれにメリット・デメリットはありますが、手書き・Excel・タイムカードなどはいずれも不正や紛失などのリスクが残るため、正確な管理体制とは言えません。またPCの起動時間は正しい記録と言えますが、PCを日常的に利用しない職種には不向きです。
一方、勤怠管理ツールなら全社員が使え、勤怠状況を正しく客観的に把握できるようになります。給与システムへの連携も可能なため、労務管理の面から見てもおすすめです。
ツールの活用で適切な勤怠管理を!
適切な勤怠管理は、企業と従業員の両者を守るという点において重要な業務です。万が一ルール違反が発生した場合には、企業側に大きなリスクを伴います。そこでおすすめしたいのが勤怠管理ツールの導入です。
勤怠管理ツールを使えば適切な勤怠管理だけでなく、労務担当者の給与計算、法定三帳簿の作成などにかかる時間コストが削減され業務効率化の実現も可能です。気になる方はぜひ勤怠管理ツールの導入を検討してみてください。