今やネットショップは、誰でも簡単に開設できるものになりました。ShopifyやBASE、STORESといったECプラットフォームを利用すれば、大きな初期コストや時間をかける必要もありません。現物だけでなくデジタルコンテンツや定額課金のサービス・商品を販売することも可能になっているなど、およそ必要になりそうな機能は全て揃っています。
ところが、そうした汎用のECプラットフォームでは、ECサイトが成長していくに従って運用が困難になったり、多機能ゆえの悩みにぶつかったりするケースもあるのだとか。そんな困った事態に陥らないようにする方法はあるのでしょうか。ECプラットフォームの導入・運用・カスタマイズから、フルスクラッチでのECサイト構築まで手がけるCuon社の後藤氏と寺崎氏に、ECを始めるにあたって押さえておくべきポイントについて伺いました。
訴求したい中身にフォーカスし、小さく、早く始める
――最初に、昨今のEC業界やECサイト構築のトレンドについて教えてください。
寺崎氏:商材を販売して購入者に配送する、といったオーソドックスなECはすでにコモディティ化しています。Shopifyのような汎用的なプラットフォームがあるので、スタートアップや新規事業としてECを新たに始める企業は、そういったツールを使うのが今は主流です。近年はデジタル商材を扱うことも増え、2、3年前からは定額課金のサブスクリプションも一般的になってきています。実際に当社でもそのような企業のお手伝いをさせていただくことが頻繁にあります。
一方で、最初は汎用プラットフォームでスモールスタートし、事業が大きくなってきたところでスクラッチ開発する、という流れも多くなってきています。企業の基幹システムや店舗・倉庫の在庫情報などと連携するような複雑なシステムになる場合は、最初からスクラッチ開発して作り込んでいくこともあります。
――ECサイトを立ち上げるときに考えておくべきポイントはありますか。
寺崎氏:まずツール選択のポイントとしては、自身がECで実現したいことをそのツールで本当にできるのか、拡張性が十分に高いかどうかを確認しておくことだと思います。ただ、昨今広く使われているツールはだいたいひと通りの機能を備えていますので、その点で不足を感じることは最初はあまりないかもしれません。それらを満たしたうえで、最後にチェックするのが利用料などのコストになります。
後藤氏:ECサイトを運用していくうえでは、全体的なサービスのグランドデザインや商品のターゲット顧客の属性をしっかりプランし、定めることが大切です。そのためにも顧客に訴求したいサービス・商品にフォーカスして、小さく始めること。加えて、迅速にサービスを始めることもビジネスの観点では重要ですので、それらの点を踏まえて、当社では汎用プラットフォームを利用する場合にShopifyをおすすめしています。
ECプラットフォームは多機能、でも管理・運用が煩雑になることも
――Shopifyがおすすめとのことですが、その具体的なメリットと、反対に弱点になりそうなところについて教えていただけますか。
寺崎氏:一番のメリットは、迅速にECサイトを立ち上げられることです。顧客のビジネスの成長に合った段階的な契約プランが用意されており、海外発のグローバルなツールということで、そのグローバルの実績に裏付けされた豊富なライブラリやプラグインが揃っていて、必要に応じて機能を追加していけます。
また、技術的な面ではヘッドレスコマースと呼ばれる仕組みを採用し、顧客が見る画面と裏側のシステムとが分離されていることから、柔軟にカスタマイズしてマーケットの変化にも対応しやすくなります。楽天市場など国内の大手ECモールと連携する機能もあり、多角的な販売戦略をネット上で展開できるのも強みだと思います。
ただ、プラグインなどでさまざまな機能を追加していけるものの、実現したい内容によっては既存のプラグインだとカバーできないことももちろんあります。プラグイン1つ1つの設定が独立しているため、管理面で煩雑になりやすいのも弱点です。汎用的に作られているがゆえの問題ですが、意外とかゆいところに手が届かず、拡張していくにしたがって運用の手間が増える可能性があります。
――そういった場合にカスタマイズや機能開発を行うことになると思うのですが、Cuon様ではどのような形で支援しているのでしょうか。
寺崎氏:必要な機能が不足している、という場合には、Shopifyはプラグインを独自に作成して好きな機能を加えることができるので、当社がその開発をお手伝いさせていただくことがあります。プラグイン開発には、まさに当社が得意としているRubyやRuby on Railsといった言語・フレームワークが利用できますので、コストを抑えながら使い勝手のよいカスタマイズ方法をご提案できるかと思います。
また、プラグインなどを利用したカスタマイズだけでは対応が難しかったり、商材や業務に沿った最適なECサイトを実現したい場合には、スクラッチのオーダーメイド開発をご提案させていただきます。そうすることで、事業者様にとって本当に必要な機能を自在に扱えるようなECサイトに仕上げることが可能です。
後藤氏:事業者様はECサイトを作ることではなく、あくまでも商品やサービスを販売することが目的かと思います。その目的に対してはShopifyでスピーディにスタートできます。しかしビジネスをより大きくしていく段階になったときは、標準だと対応しきれない部分の追加開発を行い、それでも不足するならスクラッチで開発することになります。
当社には要件定義から設計、開発、運用・保守まで、一気通貫でご支援できるフルスタックエンジニアが多数在籍していますから、少人数のチームで小回りよく対応していけます。場合によっては企画段階から技術的視点でアドバイスさせていただくことも可能です。
―これまでに手がけたなかで、特徴的なECサイト構築の事例がありましたら教えてください。
後藤氏:ある企業のデジタル商材のECサイトですね。スクラッチで開発した場合は、要件定義から完成まで9カ月ほどかかると想定される内容でしたが、Shopifyを利用して、ご要望に合わせてプラグインを追加開発する形にしたことで、3.5カ月ほどの短期間でローンチできました。
寺崎氏:追加開発したプラグインの1つは決済機能を実現するものでした。Shopify自体も標準でいくつかの決済事業者に対応していますし、既存のプラグインでさらに追加することもできますが、このときはサブスクリプションサービスの支払い方法として既存にない自動継続課金や掛け払いの仕組みが必要でした。あわせて、外部サイトにある商品に関するレビュー情報などを引っ張ってきて商品と一緒に掲載する、というような機能も実装しました。
これからのECはリアルとシームレスに融合していく
――今後、ECはどのように発展していくと考えていますか。
寺崎氏:ECと気付くことなく買い物が終わっている、みたいな顧客体験になっていくかもしれません。現在の「カートに入れて購入手続きし、商品を受け取る」という形ではなく、リアルでの買い物に自然とECが溶け込んでいく、顧客体験がリアルに近づいていく、というような感覚ですね。
たとえばアパレルショップでは、店内に設置されたタブレットやスマートフォンを使って注文するというスタイルが増えてきています。せっかく実店舗に行っても自分にフィットするサイズや気に入る色が在庫しておらず、結局取り寄せるケースが少なくないと思いますが、店内で希望の商品に近いものを試着した後、あえてタブレットやスマートフォンから注文する手順にして、リアルな体験と通信販売をシームレスに融合させている。そういった買い物体験は今後ますます広がるのではないでしょうか。
後藤氏:最近我々が手がけた案件のなかには、スクールのコース申込みをECサイトからできるようにする、というものもありました。リアルの講座申込みにECを利用するのは珍しいと思いましたが、いずれこうした手法は当たり前になって、日常に溶け込んでいくのだろうと感じています。動画配信で商品を紹介して販売するようなライブコマースもメジャーになりつつありますし、昨今話題のAIチャットを用いた対話型の買い物体験も今後は発展していきそうですよね。
―ECサイトの立ち上げを考えている、あるいは運用でつまずいている事業者に向けてアドバイスがありましたら。
寺崎氏:ECサイトを立ち上げたい事業者様に対しては、当社がこれまでに培ってきたECサイト構築のノウハウをもとに、スクラッチ開発、カスタマイズ、汎用プラットフォームの導入・運用、といった松竹梅のメニューでお届けできます。すでにECサイトを開設しているものの、運用が伸び悩んでいるお客様には、他の事業者様の実例や改善手法など、我々が肌感覚で知っているところをご提案することも可能です。
後藤氏:ECのトレンドの移り変わりは早く、確実に先が読めるものではありませんから、そのときにトレンドをしっかり捉えながら、まずは小さく始めることがやはり大事です。そのうえで顧客の特性や購買履歴を分析しながら運営することが求められます。その点、Shopifyはグローバルなプラットフォームで、マーケットのトレンドが随時取り込まれていきますし、十分な分析機能もあります。このあたりは国産ツールにはないアドバンテージではないでしょうか。無料のプランもあり、1人で立ち上げることもできますので、ぜひ一度試してみていただければ。
◆お話を伺った方
株式会社Cuon 後藤 進 氏、 寺崎 洋 氏