CSPM(Cloud Security Posture Management=クラウドセキュリティ態勢管理)とは、クラウド環境の設定や構成を継続的に監視し、セキュリティリスクやコンプライアンス違反を自動で検知・修正するソリューションのことです。
近年、クラウド移行やゼロトラストセキュリティ推進などの背景から、多くの企業でCSPMのニーズが高まっており、特に、金融・製造・小売業をはじめとする規制産業では今後必須の対策として注目されています。
しかし、CSPMにはコスト負担や誤検知・過検知といった導入の課題も存在し、十分な知識や戦略がないまま導入を進めてしまうと、最悪の場合には監査不適合やセキュリティインシデントを招くリスクもあります。
本記事では、CSPMの基本概念や注目される背景に加えて、仕組みやメリット、他分野との違いや導入事例まで徹底解説していきます。この記事を読むだけで、CSPMの全体像をまるごと把握できるため、クラウド環境の安全性確保に悩む担当者には必見の内容です!
CSPMとは?
CSPM(Cloud Security Posture Management=クラウドセキュリティ態勢管理)とは、クラウド環境におけるセキュリティの構成や設定を継続的に監視し、セキュリティリスクやコンプライアンス違反といったリスクを自動で検知・修正するためのソリューションのことです。
企業が利用するAWSやAzure、Google Cloudなどのクラウドサービスは利便性が高い一方で、設定の誤りや運用の不備が原因でセキュリティ事故が発生することが少なくありません。CSPMは、こうしたヒューマンエラーに起因するセキュリティ事故を防止するために導入された仕組みです。
例えば、過剰に公開されているストレージや適切に制御されていない権限を検出し、企業が意図せずセキュリティホールを抱え込むリスクを低減するといったことが可能です。また、各種法規制や業界基準に準拠したコンプライアンスチェックも自動化できるため、監査対応の負担も軽減されます。
具体的な活用事例としては、金融業界における「クラウド上の監査対応の自動化」や、製造業における「サプライチェーン全体のリスク管理強化」などが挙げられます。従来は人手で確認していた作業をCSPMが自動で担うことで、セキュリティの強化と効率化を両立できる点が大きな特徴です。
CSPMが注目される理由
- クラウドサービス利用の増加
- セキュリティ関連法への対応
- マルチクラウド運用の複雑化
クラウドサービス利用の増加
CSPMが注目されるようになった理由の1つ目としては「クラウドサービス利用の増加」というものが挙げられます。
近年、DXの推進やリモートワークの普及などを背景として、企業のITインフラは、従来のオンプレミスからAWSやAzure、Google Cloudといったクラウドへと急速に移行しています。しかし、そうした利便性の一方で、クラウド環境は誤った設定によるセキュリティリスクが存在することも事実です。
例えば「公開設定されたストレージからの個人情報流出事例」や「アクセス権限の不備による社外からの不正侵入」は日本国内外で多数報告されており、総務省やIPAもクラウド利用における適切な設定管理を強調しており、利用者の責任範囲にセキュリティリスクがあることを警告しています。
セキュリティ関連法への対応
CSPMが注目されるようになった理由の2つ目としては「セキュリティ関連法への対応」というものが挙げられます。
個人情報保護法やGDPR(EU一般データ保護規則)、米国のHIPAAなど、業界や地域ごとに異なる規制に対応する必要があるため、担当者にかかる負担は非常に大きいのが実情です。CSPMを導入することで、監査を自動化し、チェックリストやポリシーに沿った適切な設定を維持することができます。
例えば「NISC(内閣サイバーセキュリティセンター)のクラウド利用指針」や「IPAのクラウドセキュリティガイドライン」が整備されており、組織に適切な設定管理を求めています。国内外のセキュリティ基準や法規制を遵守するためにも、CSPMは必要不可欠な存在となりつつあるのです。
マルチクラウド運用の複雑化
CSPMが注目されるようになった理由の3つ目としては「マルチクラウド運用の複雑化」というものが挙げられます。
企業は業務効率やコスト最適化を目的に、AWSやAzure、Google Cloudといった複数のクラウドサービスを併用するケースが増えています。しかし、プラットフォームごとにセキュリティポリシーや設定項目が異なるため、クラウド管理の複雑性が大幅に増加しているのが現状です。
例えば「あるサービスでは暗号化設定が必須である一方、別のサービスでは任意項目になっている」など、管理者が全ての環境を把握しきれない状況が生じやすくなっており、マルチクラウド全体を横断的に可視化・統合管理できるCSPMの導入ニーズが急速に高まっているというわけです。
CSPMの導入メリット
- 設定ミスの検知と修正が自動で実施できる
- リスク把握とコンプライアンス対応ができる
- 継続的な監視とセキュリティの維持ができる
設定ミスの検知と修正が自動で実施できる
CSPMのメリットの1つ目としては「設定ミスの検知と修正が自動で実施できる」という点が挙げられます。
クラウド環境では管理者の操作ミスやデフォルト設定のまま運用することで、セキュリティホールが発生する恐れがあります。例えば、常時公開状態のストレージや不必要に広い権限を持つIAMポリシーは、攻撃者にとって格好の標的となります。
CSPMはこうした危険な設定を自動でスキャンし、検出した問題を一覧で提示し、ツールによっては修正案を提示したり、自動で是正できる機能なども備えています。これにより、管理者が見落としがちなヒューマンエラーの早期発見と解消が可能となり、セキュリティ事故を未然に防ぐことができます。クラウド環境の拡大とともに、CSPMの自動検知機能は多くの企業にとって必須の仕組みといえるでしょう。
リスク把握とコンプライアンス対応ができる
CSPMのメリットの2つ目としては「リスク把握とコンプライアンス対応ができる」という点が挙げられます。
クラウド環境は複数のサービスやアカウントが混在するため、全体像を管理者が把握することは困難です。その結果、どの領域にリスクが集中しているのかが把握しにくく、経営層や監査部門への説明にも時間がかかってしまいます。
CSPMを導入することで、環境全体のセキュリティリスクをダッシュボードで可視化し、どのサービスに重大なリスクが潜んでいるのかを即座に確認できます。また、NIST・ISO・CSA・PCI DSSなどの国際規格や国内のセキュリティガイドラインに基づいた自動チェックを行い、コンプライアンス遵守状況をレポートとして出力することが可能です。監査対応の効率化と説明責任の強化を同時に実現できます。
継続的な監視とセキュリティの維持ができる
CSPMのメリットの3つ目としては「継続的な監視とセキュリティの維持ができる」という点が挙げられます。
従来のセキュリティ対策では、定期的な監査や手動でのチェックが中心でしたが、クラウド環境では、サービスやシステム構成が頻繁に変更されるため、リアルタイム監視の不足によるリスクの増大が大きな課題となっていました。
CSPMは、クラウド環境を常時監視し、新しいリソースが追加された場合でも自動的にチェックを行います。これにより、ゼロデイ脆弱性や設定変更に伴うリスクを即座に把握し、必要に応じてアラートや自動修正を実施できます。特にマルチクラウドやハイブリッドクラウドを運用する企業では、人力で全てを管理するのは非現実的なため、CSPMの自動化機能がセキュリティ水準を維持する鍵となっています。
CSPMの導入デメリット
- 導入や運用にかかるコスト負担が増加する
- 過度なツール依存を引き起こす恐れがある
- 誤検知や過検知による運用課題が存在する
導入や運用にかかるコスト負担が増加する
CSPMのデメリットの1つ目としては「導入や運用にかかるコスト負担が増加する」という点が挙げられます。
CSPMは高度な自動化や監視機能を備えているため、一般的にライセンス費用やサブスクリプション料金が高額になりがちです。さらには、既存のクラウド環境に統合するための初期設定や移行プロセスにもそれ相応の工数が発生してしまいます。
特に、中小企業やクラウド利用規模が小さい組織にとっては、投資対効果の見極めが重要です。導入後も定期的なアップデートやメンテナンスが必要になるため、セキュリティ強化と引き換えに一定の経済的負担がともなうことは、あらかじめ理解しておく必要があるでしょう。
過度なツール依存を引き起こす恐れがある
CSPMのデメリットの2つ目としては「過度なツール依存を引き起こす恐れがある」という点が挙げられます。
CSPMはクラウド環境全体を監視できる強力な仕組みですが、万能ではありません。例えば、組織の内部不正やアプリケーション層など、クラウド外の脆弱性まではカバーできない場合も多く、CSPMだけに依存してしまうと大きなリスクとなってしまいます。
また、特定ベンダーに依存することで、クラウドサービスとの親和性やベンダーロックインといった問題も生じやすくなります。CSPMはあくまでセキュリティ対策の一部として、ゼロトラストモデルやCWPPなどの補完施策と組み合わせることが重要になってきます。
誤検知や過検知による運用課題が存在する
CSPMのデメリットの3つ目としては「誤検知や過検知による運用課題が存在する」という点が挙げられます。
CSPMはクラウド環境を自動でスキャンしアラートを発する仕組みですが、必ずしも全ての検知結果が正しいとは限りません。ツールの特性上、実際には問題のない設定を「リスクあり」と判定してしまうケースや重大なリスクを見逃してしまうケースも存在します。
CSPMを導入する場合には、組織のセキュリティポリシーに沿って検知ルールをチューニングし、過剰なアラートを削減する工夫が求められます。CSPM単体で完璧な解決策ではなく、適切な運用プロセスと人の判断を組み合わせる必要があるということは覚えておきましょう。
CSPM・CWPP・CNAPPの違い
項目 | CSPM | CWPP | CNAPP |
---|---|---|---|
対象 | クラウド環境全体の設定・構成 | 仮想マシン、コンテナ、サーバーレスなどのワークロード | クラウド全体(CSPM+CWPP+アプリ保護を統合) |
目的 | 設定ミスや構成不備の検知・修正 | ワークロード実行環境の脆弱性の防御 | クラウドライフサイクル全体の統合セキュリティ |
機能 | 設定監査、権限管理、コンプライアンスチェック | マルウェア検知、脆弱性スキャン、ランタイム防御 | CSPM+CWPP+APIセキュリティ+CI/CD監査 |
導入効果 | 設定ミス防止による情報漏えい回避 | 実行環境での攻撃リスク軽減 | 包括的なセキュリティ強化 |
位置づけ | クラウドセキュリティの基盤的対策 | アプリケーション実行環境を守る補完的対策 | 包括的セキュリティプラットフォーム |
CSPMとCWPPの違い
CSPMと比較されることが多い分野の1つが「CWPP(Cloud Workload Protection Platform)」です。
CWPPは、クラウド上で稼働するワークロード(仮想マシン、コンテナ、サーバーレス関数など)を保護することに特化しており、CSPMがクラウドセキュリティの基盤的対策であるのに対し、CWPPはアプリケーションの実行環境を守る補完的対策として機能します。
CSPMでは、誤ったネットワーク設定や過剰な権限付与を是正できますが、実際にアプリケーションで発生する脆弱性やマルウェア感染への対応はCWPPの領域となります。したがって、CSPMとCWPPは互いに補完し合う関係であり、どちらか一方では不十分といえるでしょう。
CSPMとCNAPPの違い
CSPMと比較されることが多いもう一つの分野が「CNAPP(Cloud-Native Application Protection Platform)」です。
CNAPPは、CSPMやCWPPを含むさまざまなクラウドセキュリティ機能を統合した包括的なプラットフォームとして位置づけられているため、広義の意味では、CSPMはCNAPPの一部機能に組み込まれていると考えることもできます。
CNAPPは、クラウドの設定ミス検知(CSPMの領域)、ワークロード保護(CWPPの領域)、さらにはAPIセキュリティやCI/CDパイプラインのチェックまで幅広くカバーすることができるため、クラウドセキュリティの次世代モデルとして広がりを見せており、CSPMはその基盤を担う重要な機能といえます。
組み合わせて活用する戦略が有効
CSPMとCWPP、さらにはCNAPPは、それぞれが異なる役割を持ちながらも、実際の運用では組み合わせて利用することが推奨されます。CSPMはクラウド環境全体の設定管理を担い、CWPPはワークロードを直接保護し、CNAPPは両者を統合して包括的な防御を提供する仕組みです。
特に、マルチクラウドやハイブリッドクラウドを利用する企業では、単一の仕組みではカバーしきれないリスクが存在するため、CSPMでポリシーを統一しつつ、CWPPで実行環境を防御し、CNAPPで統合的に監視・運用する戦略が効果的です。こうした複合的なアプローチにより、企業はクラウドセキュリティの多層防御を実現でき、将来のゼロトラスト体制にも適応しやすくなります。
CSPMツールの選び方と比較のポイント
- ①:クラウド対応範囲を確認する
- ②:機能面や性能面を比較する
- ③:統合性や拡張性を比較する
- ④:コストやライセンス体系を比較する
- ⑤:サポート体制や運用支援を比較する
①:クラウド対応範囲を確認する
CSPMツールの選び方の1つ目としては「クラウド対応範囲を確認する」というものが挙げられます。
マルチクラウドやハイブリッドクラウドを利用する企業が増えているため、CSPMツールの導入にあたっては、AWS・Azure・Google Cloudなど主要クラウドに幅広く対応しているかどうかが重要です。
一部のツールは特定のクラウドに強みを持つ一方、他のプラットフォームでは機能が制限される場合もあり、特に国内企業では、オンプレミスとのハイブリッド運用やSaaSアプリケーションとの統合も必要になるため、対応範囲の広さが導入後の運用効率を左右することは覚えておきましょう。
②:機能面や性能面を比較する
CSPMツールの選び方の2つ目としては「機能面や性能面を比較する」というものが挙げられます。
ツールごとに提供される機能には差があり、設定監査・リスク検知・自動修正の精度はもちろん、高度なCSPMツールでは、脆弱性スキャンやゼロトラストの観点を取り入れた機能も備えています。
企業が重視すべきは、自社が求めるセキュリティ要件とツールの機能がどれだけ一致しているかであり、金融業界ではPCI DSSやFISC基準への準拠、製造業ではサプライチェーン全体の監査機能が重要視される傾向があります。自社特有のリスクに直結する機能の有無を確認することが必須です。
③:統合性や拡張性を比較する
CSPMツールの選び方の3つ目としては「統合性や拡張性を比較する」というものが挙げられます。
CSPMは単独で完結するものではなく、SIEMやSOAR、CWPPなどのセキュリティツールと組み合わせて利用されるケースが多く、既存のセキュリティ基盤との統合性が重要な選定基準になってきます。
例えば、検知したリスクをSOARに自動連携してインシデント対応を効率化できるツールであれば、セキュリティの運用全体をスムーズに回すことができます。そのため、将来的なCNAPP移行を視野に入れている場合であっても、拡張性の高い製品を選定することで投資効果を長期的に確保できます。
④:コストやライセンス体系を比較する
CSPMツールの選び方の4つ目としては「コストやライセンス体系を比較する」というものが挙げられます。
CSPMは導入費用や月額費用が高額になる場合が多く、利用リソース数やアカウント数に応じた課金モデルを採用しているため、利用する会社の規模によってコストが変動しやすいのが特徴です。
費用対効果を最大化するためにも、導入前には、複数のツールの料金モデルを比較検討することが不可欠です。特に中小企業では、トライアルやスモールスタートにも対応できるような、柔軟なライセンス体系を持つツールやベンダーを選定することが、大きなコスト削減効果をもたらします。
⑤:サポート体制や運用支援を比較する
CSPMツールの選び方の5つ目としては「サポート体制や運用支援を比較する」というものが挙げられます。
ツールは導入すれば終わりではなく、日々の運用で発生する課題や誤検知への対応、設定変更への支援が必要になります。そのため、ベンダーのサポート体制やドキュメント整備の充実度が重要です。
日本語対応のサポート窓口があるか、導入後のトレーニングやマニュアル提供が整っているかといった点は、特に国内企業にとって大きな判断材料となります。単なるツール提供だけではなく、導入後の運用まで見越した、伴走型の運用支援を提供できるベンダーを選定することが成功の近道です。
まとめ
本記事では、CSPMの基本概念や注目される背景に加えて、仕組みやメリット、他分野との違いや導入事例まで徹底解説していきました。
CSPMは、設定ミスの検知やリスク可視化といった大きなメリットがある一方で、導入コストや誤検知・過検知の課題など、注意すべきポイントもいくつか存在します。
そのため、CSPMの導入を成功させるためには、ツールの比較検討だけではなく、運用体制の構築やセキュリティ専門人材の育成といった導入前の準備が不可欠です。
本記事を参考に、ぜひ自社に合ったCSPMツールを探し、マルチクラウド環境の安全性確保に役立ててみてはいかがでしょうか?