サプライチェーンセキュリティとは、企業の取引先や委託先を含む供給網(サプライチェーン)全体を守るための、包括的な情報セキュリティ対策のことです。

近年、グローバル化やデジタル化の進展、国内外でのサイバー攻撃や情報漏えい事件の発生などを背景に、サプライチェーンリスクにおける管理の重要性が急速に高まっています。

しかし、サプライチェーンセキュリティの導入には、コスト負担や運用体制の複雑化といった課題も存在し、対応を怠ってしまうと自社の情報資産や信頼が失われるリスクがあります。

本記事では、サプライチェーンセキュリティの基本概念から注目される理由に加えて、攻撃事例や導入のポイントまで徹底解説していきます。

この記事を読むだけで、サプライチェーンセキュリティの全体像を把握できるため、セキュリティ対策や取引先管理に悩む担当者必見の内容です!

サプライチェーンセキュリティとは?

サプライチェーンセキュリティとは、企業が製品やサービスを提供する過程で関わる取引先や委託先を含めた供給網全体に対して、情報資産を守るための包括的なセキュリティ対策のことです。自社だけでなく、調達先・製造委託先・物流業者・販売代理店までを含めた広範な供給網を対象としています。

自社のセキュリティが強固でも、取引先が脆弱であれば攻撃の踏み台にされる可能性があり、結果的に自社のブランド価値を失う危険があります。サプライチェーンセキュリティを導入することで、こうしたリスクを事前に回避し、取引先や顧客からの信頼を獲得することが可能になります。

具体的な活用事例としては、主に「調達先のセキュリティ評価システムの導入」や「委託先へのセキュリティ教育の実施」などが挙げられ、クラウドサービスや製造ラインにおける外部ベンダーのアクセス管理を強化することで、サイバー攻撃や情報漏えいのリスクを低減する企業も増えています。

サプライチェーンセキュリティが注目される理由

  • サイバー攻撃の増加と手法の多様化
  • 政府や国際規格による指針の整備化
  • グローバルサプライチェーンの複雑化

サイバー攻撃の増加と手法の多様化

サプライチェーンセキュリティが注目されるようになった理由の1つ目としては「サイバー攻撃の増加と手法の多様化」というものが挙げられます。

近年、標的型攻撃やランサムウェアによる攻撃は大企業だけでなく、その取引先や下請け企業を経由して被害を拡大させる手口が増えています。特に、攻撃者はセキュリティが脆弱な中小企業やベンダーを狙い、そこを突破口にして大企業のシステムへ侵入するケースが多発しています。

この背景には「コスト削減のために外部委託が進んだ結果、セキュリティ水準が均一でないという構造的な課題」があります。攻撃者にとっては最も弱いリンクを突破するのが効率的であるため、サプライチェーン全体を見据えた防御体制が不可欠となりました。そのため、従来の境界防御型の発想だけでは対応できない新たな課題として注目を集めているのです。

政府や国際規格による指針の整備化

サプライチェーンセキュリティが注目されるようになった理由の2つ目としては「政府や国際規格による指針の整備化」というものが挙げられます。

日本国内では経済産業省やIPA(情報処理推進機構)がガイドラインを発表し、取引先管理や委託先へのセキュリティ要求を強化するよう推奨しています。特に「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」では、経営層がサプライチェーン全体のセキュリティを確保する必要性が明記されています。

国際的にも「ISO 28000(サプライチェーンセキュリティマネジメント)やNISTサイバーセキュリティフレームワーク」といった基準が普及し、多国籍企業を中心に対応が進んでいます。こうした動向を背景に、取引先からセキュリティ対応を求められる事例も増えており、国内企業にとっても競争力維持のためには対応せざるを得ない状況となっているのです。

グローバルサプライチェーンの複雑化

サプライチェーンセキュリティが注目されるようになった理由の3つ目としては「グローバルサプライチェーンの複雑化」というものが挙げられます。

調達先や委託先が世界各地に点在するようになった結果、セキュリティ水準の異なる取引先が複数混在し、リスクの把握や管理が難しくなっています。特に、企業活動が国際的に広がる一方で、海外に拠点を置く調達先や委託先などは、攻撃者が狙いやすいポイントになっています。

特に近年では「国家主導の情報窃取や重要インフラへの攻撃といった地政学的なリスクの高まりなども影響」しており、脅威も現実のものとなっています。このような状況では、一社単独でのセキュリティ対策では不十分であり、サプライチェーン全体を一体的に管理する取り組みが欠かせません。一貫したセキュリティ体制の確立が必要不可欠となっているのです。

経済産業省のサプライチェーンセキュリティ施策

経済産業省のサプライチェーンセキュリティ施策とは、政府が日本の産業全体を守るために「企業や取引先に対して遵守すべき指針や支援策を提示したもの」です。

特に「サイバーセキュリティ経営ガイドライン」や「サプライチェーンセキュリティに関する指針」は、国内企業にとって必ず参照すべき基盤となっています。これらは単なる推奨ではなく、取引先の選定や契約条件などにも直結するため、指針の遵守が事実上の必須要件になりつつあります。

近年多発している攻撃の特徴は「大手企業を直接狙わずに取引先を経由して侵入する」というものです。そのため経産省は、委託先や下請けを含めた一体的なリスク管理を推進しています。たとえば調達段階でのセキュリティチェックリストの導入やベンダー監査の強化を呼びかけています。

さらに、経産省は中小企業の支援にも注力しており、主に「サイバーセキュリティお助け隊」による実務支援や「セキュリティ対策補助金制度」による資金のサポートを展開しています。こうした取り組みにより、余裕のない中小企業でも一定レベルのセキュリティ水準を確保しやすくなっています。

また、経産省はNISC(内閣サイバーセキュリティセンター)やIPA(情報処理推進機構)と連携し「官民一体でのセキュリティ強化体制」を整備しています。重要インフラ分野や製造業においては、ISOやNISTと整合性のある国内ガイドラインを策定し、国際的な競争力を損なわずに対策を推進できるよう工夫されているのです。

サプライチェーン攻撃の事例

  • ソーラーウィンズ事件
  • 国内の大手企業に多い攻撃事例
  • 国内の中小企業に多い攻撃事例

ソーラーウィンズ事件

サプライチェーン攻撃の代表的な事例としては「ソーラーウィンズ事件」が挙げられます。

2020年に発生したこの事件では、米国の大手IT企業ソーラーウィンズ社のネットワーク管理ソフトウェアが攻撃者によって改ざんされました。その結果、同ソフトを利用していた米国政府機関や大手企業が一斉に侵害される事態となりました。

この攻撃は「信頼されたソフトウェアのアップデート機能が悪用された」ことが特徴であり、利用者は正規のアップデートを適用したにもかかわらずマルウェアを導入してしまう事態になりました。被害の範囲は世界規模に及び、サプライチェーンセキュリティの重要性を世界中に知らしめるきっかけとなった事件です。以降、多くの企業がアップデートの監査体制を強化するようになりました。

国内の大手企業に多い攻撃事例

日本国内でも、サプライチェーン攻撃の被害は現実に発生しています。特に「大手製造業を狙ったサイバー攻撃」が増えており、その多くは協力会社や関連ベンダーを経由して侵入されるケースです。例えば、自動車メーカーや電機メーカーなどでは、下請け企業のネットワークを突破口に情報漏えいが発生した事例が報告されています。

この背景には、取引先企業のセキュリティ対策が十分でないことが多く「セキュリティ水準の格差が攻撃者に悪用される構造」があります。特に国内大手企業は海外拠点を含めた広大なサプライチェーンを抱えており、その複雑さがリスクを増幅させています。これらの事件は、単に大企業だけでなく、日本経済全体に波及するリスクを示すものとして注目されています。

国内の中小企業に多い攻撃事例

中小企業におけるサプライチェーン攻撃の代表的な事例としては「取引先の大手企業への踏み台にされるケース」です。攻撃者はセキュリティ投資の余裕が少ない中小企業を狙い、メール攻撃や脆弱性を突いた侵入を仕掛けます。その後、中小企業のシステムを経由して、大手企業の基幹システムや顧客データに到達するのです。

このような被害は特に製造業やIT業界で多く見られ、実際に「標的型メール攻撃の訓練を受けたことがない従業員のクリック」が発端となるケースも少なくありません。中小企業自身は直接の被害が小さくても、取引先に大きな被害を与えてしまうことで信頼を失い、契約解消につながるリスクがあります。結果として、全体の安定性を脅かす重大な問題となるのです。

サプライチェーンセキュリティのメリット

  • 企業の信頼性の向上につながる
  • 法規制やガイドラインを遵守できる
  • 事業やビジネスの継続性を確保できる

企業の信頼性の向上につながる

サプライチェーンセキュリティのメリットの1つ目としては「企業の信頼性の向上につながる」という点が挙げられます。

取引先や顧客は、自社だけでなくサプライチェーン全体の安全性を評価する傾向が強まっています。そのため、セキュリティ対策を実施している企業は「安全な取引先として選ばれやすくなる」という大きな利点を得ることができます。

例えば、製造業や金融業などでは、規格に沿ったセキュリティ対策を実施することで、入札条件や取引条件を満たせるケースもあります。逆に、対策が不十分であると取引先の選定から外されたり、検討の土台に上がらなかったりすることもあるため、信頼性の確保は競争力の維持に直結します。

法規制やガイドラインを遵守できる

サプライチェーンセキュリティのメリットの2つ目としては「法規制やガイドラインを遵守できる」という点が挙げられます。

国内では経済産業省やIPAが指針を示しており、海外ではISO 28000やNIST CSFといった国際的な基準が普及しています。これらの規格に準拠することで「監査や契約条件にスムーズに対応できる」というメリットを得ることができます。

特にグローバル展開を行う企業にとっては、海外拠点や海外取引先とのやり取りにおいて、国際規格への準拠が求められるケースが多くあります。そのため、セキュリティ対策を実施することは、単なる防御策にとどまらず、国際的な取引に必要な信頼基盤としての役割を果たすものといえます。

事業やビジネスの継続性を確保できる

サプライチェーンセキュリティのメリットの3つ目としては「事業やビジネスの継続性を確保できる」という点が挙げられます。

サイバー攻撃が発生してしまうと、企業活動そのものに甚大な影響を及ぼします。しかし、サプライチェーン全体でセキュリティ対策を実施することで「生産ラインの停止や物流の混乱などのリスク」を最小限に抑えることが可能です。

例えば、リスク評価や冗長化対策を導入しておけば、攻撃や障害が発生しても、迅速に復旧できる体制を構築することが可能です。特に、インフラや製造業など社会的に重要な業種においては、信頼関係を維持することができるというメリットは極めて大きな意味を持つものといえるでしょう。

サプライチェーンセキュリティのデメリット

  • 導入や運用にはコストが発生する
  • 管理や運用の体制構築が必要になる
  • 初期導入のハードルが高くなりがち

導入や運用にはコストが発生する

サプライチェーンセキュリティのデメリットの1つ目としては「導入や運用にはコストが発生する」という点が挙げられます。

サプライチェーン全体を対象としたセキュリティ対策には、リスク評価の実施、監査体制の整備、ツールの導入など、多くの費用が必要になります。特に中小企業にとっては、これらのコスト負担が経営を圧迫する要因となりやすいです。

解決策としては「クラウドサービスの活用や補助金制度の利用」が有効です。クラウド型のセキュリティサービスであれば、初期投資を抑えつつ最新の防御機能を利用できます。また、経済産業省やIPAが提供する補助金や助成金の制度を活用すれば、導入コストの負担を軽減することができます。

管理や運用の体制構築が必要になる

サプライチェーンセキュリティのデメリットの2つ目としては「管理や運用の体制構築が必要になる」という点が挙げられます。

取引先が多岐にわたる場合、それぞれの企業に対してセキュリティ要件を確認し、遵守状況を監査する必要があります。内容自体はシンプルですが、いざ実施するとなると、情報システム部門やリスク管理部門に大きな負担がかかることになります。

解決策としては「ベンダーリスク管理ツールの導入」が効果的です。取引先のセキュリティ状況を一元的に管理でき、効率的に監査を行うことができます。また、ゼロトラストモデルを採用することで、取引先や委託先に依存しないセキュリティ設計が可能となり、複雑さを軽減することができます。

初期導入のハードルが高くなりがち

サプライチェーンセキュリティのデメリットの3つ目としては「初期導入のハードルが高くなりがち」という点が挙げられます。

特に、企業文化や取引慣習によってセキュリティ意識に差がある場合、全体での合意形成に時間がかかってしまいます。また、国際的な取引では法規制や基準の違いが障壁となり、統一的な対策を実施するのが難しいケースも多くあります。

解決策としては「段階的な導入と教育」が効果的です。まずは重要取引先からセキュリティ契約を締結し、段階的に対象を広げる方法が現実的です。また、取引先に対して定期的なセキュリティ教育やワークショップを実施することで、意識を高めつつ導入をスムーズに進めることができます。

サプライチェーンセキュリティの対策

  • 『ISO 28000』の対応
  • 『NIST CSF』の活用
  • 『ゼロトラスト』との組み合わせ

『ISO 28000』の対応

サプライチェーンセキュリティの対策の1つ目としては「ISO 28000の対応」が挙げられます。

ISO 28000は「サプライチェーンセキュリティのマネジメントシステムに関する国際規格」のことで、物流や調達を含む供給網全体を体系的に整備する枠組みです。

ISO 28000のメリットは「国際取引における信頼性の確保に直結する」という点です。特に輸出入をともなう企業や多国籍企業では、国際規格準拠が取引条件になるケースも少なくありません。そのため、ISO 28000を導入することは、セキュリティ対策であると同時に、国際競争力を維持するための必須条件ともいえるでしょう。

『NIST CSF』の活用

サプライチェーンセキュリティの対策の2つ目としては「NIST CSFの活用」が挙げられます。

NIST CSFは「NIST(米国国立標準技術研究所)が策定したサイバーセキュリティフレームワーク」のことで、識別・防御・検知・対応・復旧という5つを中心に構成されます。

NIST CSFのメリットは「組織規模や業種を問わず柔軟に適用できる」という点です。大企業だけでなく中小企業にとっても、段階的に導入できる仕組みを備えているため、リソースが限られている企業でも活用が可能です。また、国際的なベストプラクティスとして認知されていることから、海外取引先との信頼構築にも役立ちます。

『ゼロトラスト』との組み合わせ

サプライチェーンセキュリティの対策の3つ目としては「ゼロトラストとの組み合わせ」が挙げられます。

ゼロトラストとは「すべてのアクセスを信頼せず常に検証する考え方のセキュリティモデル」であり、従来の境界防御型セキュリティの限界を補うための仕組みです。

ゼロトラストのメリットは「不正利用や内部不正を防止できる」という点です。サプライチェーンにおいては、取引先や委託先がネットワークにアクセスする機会が頻繁にあります。例えば、認証を強化したり、アクセス権限を最小化したりなどで、内部の不正を防ぐことが可能です。また、リモートワーク環境とも相性が良く、現代の分散型サプライチェーンに適した対策として注目されています。

サプライチェーンセキュリティの導入ステップ

  • ①:事前評価の実施
  • ②:組織内体制の構築
  • ③:運用と継続的改善

①:事前評価の実施

サプライチェーンセキュリティの導入ステップの1つ目としては「事前評価の実施」が挙げられます。導入前に、自社および取引先を含めたサプライチェーン全体のリスクを把握することが不可欠です。たとえば、どの取引先が機密情報にアクセスできるのか、どの工程が攻撃の標的になりやすいのかを洗い出す必要があります。

この段階で「取引先ごとのセキュリティ水準を評価するチェックリスト」を用いることが効果的です。また、経済産業省やIPAが公開しているガイドラインを参考にすれば、中小企業でも効率的にリスク評価を進められます。リスクを定量化しておけば、後続の施策に優先順位をつけやすくなり、効果的な対策の導入が可能になります。

②:組織内体制の構築

サプライチェーンセキュリティの導入ステップの2つ目としては「組織内体制の構築」が挙げられます。評価で明らかになったリスクをもとに、社内の責任分担や取引先との契約条件を整備することが必要です。経営層のリーダーシップが不可欠であり、情報システム部門や調達部門と連携してセキュリティポリシーを策定することが求められます。

具体例としては「取引先に対するセキュリティ要件を明文化する」ことが挙げられます。たとえば、アクセス権限の管理やデータ暗号化の実施を契約条件に組み込むことで、外部委託先のセキュリティレベルを一定以上に引き上げられます。また、インシデント対応計画を策定しておくことで、被害発生時に迅速な対応が可能になります。

③:運用と継続的改善

サプライチェーンセキュリティの導入ステップの3つ目としては「運用と継続的改善」が挙げられます。セキュリティは一度導入すれば終わりではなく、継続的に監視・改善していく必要があります。新しい脆弱性や攻撃手法は日々登場するため、定期的な監査やベンダー評価を繰り返し、状況に応じて対策を更新しなければなりません。

効果的な方法としては「PDCAサイクルにもとづくセキュリティの運用」が挙げられます。計画(Plan)、実行(Do)、確認(Check)、改善(Act)を繰り返すことで、常に最新の脅威に対応できる体制を維持できます。また、外部監査や第三者評価を取り入れることで、客観的に弱点を見つけやすくなります。

まとめ

本記事では、サプライチェーンセキュリティの基本概念から注目される理由に加えて、攻撃事例や導入のポイントまで徹底解説していきます。

サプライチェーンセキュリティは、企業における信頼性の向上や国際規格への対応といった大きなメリットがある一方で、導入コストや運用複雑性など注意すべき課題もいくつか存在します。

そのため、サプライチェーンセキュリティを成功させるには、リスク評価や体制構築など導入前の工夫が不可欠であり、中小企業でも補助金や外部サービスを活用することで十分に実践可能です。

本記事を参考に、ぜひ自社に合ったサプライチェーンセキュリティ製品や施策を検討し、競争力と信頼性を高めてみてはいかがでしょうか?

おすすめ記事