VPNは、安全なインターネット利用を実現する上で重要な技術とされています。しかし、具体的にどのような意味があって導入するべきなのかについては、あまり広く知られていません。
そこで本記事では、VPNの主要機能であるインターネット通信の暗号化について解説します。VPNで採用されている暗号化の種類も合わせて紹介しますので、導入を検討している方は参考にしてください。
VPNの仕組み
VPNは、安全なインターネット利用を実現するための技術です。具体的には、仮想ネットワークを構築することで、ユーザーのインターネット利用を保護しています。VPNの仕組みを理解する上で必要なのが、以下2つの技術です。
- トンネリングカプセル化
- 暗号化および認証
トンネリングカプセル化は、VPNのデータ保護の仕組みをわかりやすく表現したものです。VPNはインターネット接続にあたり、専用経路を構築することで安全を確保します。その際、VPNの経路はトンネルのように外部からは見えない状態でデータの送受信を行います。
また、トンネルの中を通過するデータについては、カプセルのように密閉された状態でやりとりが行われます。データを剥き出しでやりとりすることがなく、データの改ざんや流出のリスクを低減する上で役立つ仕組みです。
トンネリングカプセル化に加えて、もう1つVPN運用において大切なのが、暗号化と認証の技術です。カプセルにデータを密閉する際、送信者と受信者の間でのみ認証ができる暗号を付与することで、第三者によって不正にデータが盗み見られる事態を回避できます。
具体的に採用している技術についてはVPNサービスによって微妙に異なりますが、多くのVPNは上記のような仕組みを採用しているケースが一般的です。
暗号化の種類
VPNにおける暗号化のアプローチには、以下の2つがあります。
- 秘密鍵暗号化方式
- 公開鍵暗号化方式
秘密鍵暗号化方式は、データの送信者と受信者が共通の鍵を有し、その鍵がなければデータの展開ができないという仕組みを採用したものです。一方の公開鍵暗号化方式は、「公開鍵」と「秘密鍵」の2つを揃えて初めてデータを展開できるという方式です。
公開鍵は誰でも使用できますが、秘密鍵はユーザー本人しか知り得ない情報のため、誰かに盗み見られない限り、送受信データが脅威にさらされることはありません。また、公開鍵の作成は、秘密鍵を持ったユーザーにしか行うことはできず、第三者が勝手に公開鍵を作成することはありません。送信したいデータの暗号化も公開鍵を用いて行われ、秘密鍵を使って初めて、暗号化されたデータを解読できるようになります。
秘密鍵暗号方式は、秘密鍵の情報を事前に相手に伝える必要があるため、その際に情報が流出するとセキュリティの意味がなくなってしまいます。一方、公開鍵暗号方式は送受信者がお互いに秘密鍵を持っており、公開鍵と連動させることでデータを展開できるため、鍵データをやりとりする必要がありません。
データの暗号化は秘密鍵暗号化方式、鍵データ情報の共有は公開鍵暗号化方式で行うという使い分けも行われています。これらの暗号化手法はVPNだけでなく、電子署名などのほかの技術にも用いられており、非常に強力かつポピュラーな手段だと言えるでしょう。
VPNはなぜ必要なのか
複雑な暗号化通信によってVPNはユーザーのインターネット利用を脅威から守っていますが、そもそもなぜ企業はVPNの利用を求められているのでしょうか。
最も大きな理由としては、近年サイバー攻撃が増加傾向にあることが背景にあるでしょう。今や個人よりも企業がサイバー攻撃の標的となるリスクが高く、毎年莫大な被害をもたらしています。
攻撃手法が多様化・複雑化する中、サイバー攻撃のリスクをゼロにすることは難しくなりましたが、それでもリスクを最小限にとどめるための企業努力は欠かせません。安全な通信環境をVPNによって実現し、組織を守ることは、企業経営におけるスタンダードな取り組みです。
VPNの導入は、リモートアクセスツールのような便利なサービスを低リスクで運用する上でも大切です。働き方の多様性や柔軟性を確保し、生産的な業務プロセスを導入する土台となるでしょう。また、拠点間通信を低コストで実現する手段としてもVPNは注目されており、導入メリットは年々大きくなっています。
VPN運用の注意点
VPNを正しく運用することで、企業は多くのメリットを期待することができます。しかし、運用にあたっては注意すべきポイントもあります。
まず、VPNの利用はユーザーや企業の安全を100%保証するものではないという点です。VPNを利用していても、マルウェアが添付されたメールを開いてしまうと、そのデバイスを中心として社内にウイルス感染が広まってしまう可能性があります。また、VPNで秘匿回線を利用しているつもりでも、端末を丸ごと紛失してしまうと、端末経由で情報流出が発生してしまうこともあります。
サイバー攻撃の手口は日々進化しているため、従来の防御手法が役に立たなくなることもあります。VPNはあくまで標準的なセキュリティ対策と考え、それ以外の攻撃検知サービスの導入を進めるなどして、予防などに取り組むことが大切です。
従業員の端末紛失などによる人為的なインシデントも、サイバー攻撃のきっかけを与えかねません。VPN利用についてもルールを設計し、安全なインターネット利用を仕組みとして促すことが求められます。
加えて、VPNの利用に際しては通常のインターネット利用に比べ、通信速度が低下する問題も抱えていることに注意が必要です。VPNサービスによって、どれくらい通信の品質に影響が出るかは差がありますが、VPNを利用して通信速度が早くなることはないと覚えておきましょう。
VPNの仕組みを理解し、正しく運用しよう
VPNによる暗号化通信は多くの企業が採用しており、サイバー攻撃対策の一環として、今後も導入企業が増えていくと考えられます。
VPNは安全なインターネット利用をサポートする技術ですが、サイバー攻撃を完全に防ぐことができるわけではなく、また運用者の正しい理解がなければそのリスクを上手に小さくすることはできません。VPN導入に伴うメリットと注意点を正しく理解して、組織のIT活用を進めましょう。