ビジネスシーンでは、企業の情報資産を保護する目的で、VPN(Virtual Private Network)が用いられ、社外から社内のネットワークにアクセスすることが一般的です。しかし、実際にVPNを導入してみると、接続速度の低下という問題が発生することがしばしばあります。そこで本記事では、VPN接続が遅くなる原因と、その対策方法について解説します。

VPN接続が遅くなる原因

まずは、ビジネス環境でのVPN接続遅延の原因を明らかにしましょう。一般的には以下のような問題が考えられます。

接続先サーバーの負荷によるもの

VPN接続が遅い原因の1つとして、接続先サーバーの負荷が高いことが挙げられます。多くのユーザーが同時に接続すると、サーバーが処理しきれずに通信速度が低下します。リモートワークが増える状況下で、サーバーの負荷が大きくなることもあるでしょう。

また、公共のVPNサービスでは、不特定多数のユーザーがアクセスすることによって通信速度が遅くなることもあります。

セキュリティ機能の負荷によるもの

VPN接続は通信を暗号化することでセキュリティを確保しますが、この暗号化処理が通信速度に影響を与えることがあります。さらに、デバイスにインストールされたセキュリティ対策ソフトの影響で通信速度が遅くなっていることもあります。

なかでも、高度なセキュリティ機能を有するVPNサービスは、処理負荷が高くなりがちであり、通信速度が遅くなることがあります。たとえば、ウイルス対策や不正アクセス防止機能などを追加している場合、負荷が増加し、通信速度に影響が出ることがあります。

回線の帯域制限によるもの

インターネットサービスプロバイダ(ISP)が提供する回線の帯域制限が、VPN接続速度に影響を与えることがあります。たとえば、回線が混雑している場合や、帯域制限を超えてデータ通信を行っている場合、通信速度が低下することがあります。

また、プロバイダが特定のトラフィックタイプ(例えばP2P通信)に対して規制をかけている場合も、VPN速度が遅くなることがあります。

MTU設定の問題によるもの

MTU(Maximum Transmission Unit)は、一度に送信できるデータの最大サイズのことです。デフォルトのMTU設定が適切でない場合、VPN接続時に通信速度が遅くなることがあります。これは、データパケットが分割され、効率的な通信が行えなくなるためです。

デバイスやルーターの処理負荷によるもの

VPN接続の速度低下は、データ通信だけでなく、デバイスやルーターの処理負荷によるものもあります。デバイスのリソース不足、繁忙時のアップデート、ネットワーク機器のリソース不足やファームウェアの更新が影響を与える要因です。なかでも、ファームウェアが古い場合は、通信速度の低下だけでなく、セキュリティの脆弱性に関連する問題も発生する可能性があるため、定期的な見直しが必要です。

遅いVPN接続への対処法

では、VPN接続が遅い場合にはどのように対処したらよいでしょうか?一般的には以下のような対処法が考えられます。

接続先サーバーの見直し

サーバー接続先が過負荷状態にあると、通信速度が遅くなることがあります。対処法として、サーバーの稼働状況をチェックし、操作設定から負荷の低いサーバーに接続先を変更するのが効果的です。

また、海外のサーバーに接続していることにより遅延している場合は、地理的に近い国内サーバーに接続することで、遅延を最小限に抑えることができます。

セキュリティ機能の最適化

高度なセキュリティ機能を持つVPNは、処理負荷が高いことにより通信速度の低下につながります。VPNのセキュリティは、トンネリング・カプセル化・暗号化の3つの対策を重ねることで実現されるのが特徴です。

また、VPNの通信だけでなく、デバイスにも複数のセキュリティソフトを重ねることでさらに通信速度が遅くなることもあります。これらのセキュリティ対策ソフトを見直すと、通信速度が改善することがあります。

プロバイダの見直し

プロバイダが提供する回線の帯域制限や品質は、VPN接続速度に影響を与えます。そのため、通信速度や安定性が高いプロバイダに変更することで、VPN接続速度の向上が期待できます。セキュリティ面においても、高速通信と高セキュリティを実現するプロバイダに変更しましょう。

コスト重視でプロバイダを選んでいる場合、プロバイダの変更により通信速度が改善することも期待できます。特に、インターネットVPNを利用している場合は、IP-VPNに変更することで劇的に速度の改善を期待できます。

MTUの設定の変更

デフォルトのMTU設定が適切でない場合、通信速度が遅くなることがあります。MTU設定を調整すると、データパケットの分割を最適化して効率的な通信が可能になります。

MTU設定はVPNクライアントやルーターの設定画面から変更できますが、通信環境によって影響が異なるため、慎重に行わなければなりません。今までの通信設定が異なることにより、未知のエラーを起こす可能性も考えられるので注意してください。

デバイスとルーターの再起動

プライマリな対策として、デバイスやルーターを再起動することで、通信速度が改善することもあります。リソースやメモリ不足により、システムの安定性が損なわれ、通信速度や処理能力に影響を与えることがあるためです。特に、電源を長時間つけたままのモデムやルーターには効果的です。

再起動により通信速度の改善が見られたら、定期的に再起動する運用が推奨されます。また、古い機種を利用している場合、規格や性能が最新技術に対応していない可能性もあるため、通信規格や処理速度に適した機種へのアップグレードを考えてもよいでしょう。

プロバイダに問い合わせる

通信遅延が頻繁に起きるわけではなく、一時的に通信速度が低下している場合は、プロバイダに問題がある可能性があります。この問題は自社で解決することは困難であるため、プロバイダに問い合わせを行いましょう。状況によっては、サイバー攻撃によって回線が遅延しているケースも考えられます。

VPN接続を最適化して通信速度を向上しよう

ビジネスシーンでのVPN利用は、情報セキュリティやリモートワークの効率化に欠かせません。しかし、VPN接続が遅いと作業効率が低下して、ビジネス活動に支障が出る可能性があります。

本記事で紹介した対処法を試して、VPN接続を最適化し、快適な通信環境を実現しましょう。ビジネスの効率化や情報セキュリティの維持には、VPN接続の最適化が重要です。

この記事の執筆

ITreview Labo編集部

ITreviewの記事編集チーム。ITreviewの運用経験を活かし、SaaSやIT製品に関するコンテンツをお届けします。

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