OCRとは、Optical Character Recognition(光学文字認識)の略称で、画像や紙の書類に書かれた文字をデジタル化し、編集可能なテキストデータに変換する技術のことです。
近年では、AIやディープラーニングの進化により、OCRの認識精度が向上し、業務のペーパーレス化やデータ入力の自動化を進める企業にとって、OCRは欠かせない技術となっています。
一方で、OCRの認識精度は文字の種類や書類の形式によって変動するため、利用目的に適したソフトやサービスを選定しないと、誤認識によるデータ入力ミスや業務効率の低下を招く可能性があります。
本記事では、OCRの仕組みやAI-OCRとの違いから具体的な活用事例、導入のメリットやデメリット、OCRソフトの選び方まで詳しく解説します。
目次
OCRとは?
OCRとは、Optical Character Recognition(光学文字認識)の略称で、画像や紙の書類に書かれた文字をデジタル化し、編集可能なテキストデータに変換する技術のことです。
スキャナやカメラで撮影した文書をOCR処理することで、テキストデータとして編集・検索が可能になるもので、主に請求書や領収書データの自動入力などで活用されています。
近年では、AI(人工知能)技術を搭載したAI-OCRが登場し、従来のOCRでは認識が難しかった手書き文字や、書体・レイアウトが複雑な文書の認識精度が飛躍的に向上しました。
OCR技術は、企業における紙文書のデジタル化、業務効率化、そしてペーパーレス化を推進する上で重要な役割を果たしており、バックオフィス業務の自動化や情報活用において不可欠なテクノロジーとなっています。
OCRの仕組み
- ①:画像の前処理
- ②:文字の特徴の抽出
- ③:テキストへの変換
OCRの仕組みは、大きく分けて「画像の前処理」「文字の特徴の抽出」「テキストへの変換」の3つのステップで構成されています。
まず、画像の前処理では、スキャナやカメラで取得した画像を解析しやすくするために、傾き補正・ノイズ除去・コントラスト調整を行います。
次に、文字の特徴抽出の段階では、読み取る文字の形状、線の太さ、角の有無といった特徴を抽出し、あらかじめデータベースに登録された文字パターンと比較照合することで文字を特定します。
最後に、テキスト変換の段階で、認識された文字情報がデジタルデータとして出力され、検索や編集が可能になります。
従来のOCR技術とAI-OCRの違い
従来のOCR技術の特徴
従来のOCR技術は、パターンマッチングやルールベースの手法を用いて文字を認識する方式です。
特定のフォントやレイアウトで印刷された規則的な書類・帳票の活字認識では高精度を発揮するものの、異なるフォントや手書き文字、文字の配置によっては正確に読み取れないこともあります。
また、文脈を理解せずに単独の文字単位で認識を行うため、大量の書類処理には不向きです。そのため、一定のフォーマット内で活字を認識する用途に特化したものと言えます。
最新のAI-OCR技術の特徴
AI-OCRは、ディープラーニング(深層学習)を活用したOCR技術で、従来のOCRと比較して、手書き文字や複雑なフォーマットの文書にも高精度で対応できる点が特徴です。
AI-OCRは、単に文字を認識するだけでなく、文脈を考慮した解析を行います。そのため、フォントやレイアウトが崩れていてもより正確な認識が可能です。また、学習を重ねることで認識精度が向上していきます。
加えて、AI-OCRは画像補正やノイズ除去といった処理を自動で行うため、スキャナやスマートフォンで撮影した歪みのある画像からでも高精度な認識が可能です。そのため、手書きの書類や異なるフォーマットの帳票を扱う業務に適しています。
OCRの活用事例
- 経理や財務:請求書や領収書を自動入力する
- 物流や倉庫:各伝票や納品書を自動入力する
- 法務や契約管理:契約書や申込書を自動入力する
- 営業や顧客管理:先方の名刺をデジタル管理する
経理や財務:請求書や領収書を自動入力する
経理業務では、請求書や領収書のデータ入力をOCRで自動化することで、手入力による負担を軽減し、処理速度を向上させることが可能です。
従来は、請求書の金額や日付などは手入力で行っており、入力ミスが発生しやすいのが課題でした。しかし、OCRを導入すれば、紙の請求書をスキャンするだけで自動的にデータ化できるため、入力ミスを防ぎつつ作業時間を短縮できます。
さらに、AI-OCRを活用することで、フォーマットが異なる請求書にも対応できるため、取引先ごとに書類形式が異なっていても正確な処理が可能です。
物流や倉庫:各伝票や納品書を自動入力する
物流業界では、出荷伝票や納品書のデータ入力をOCRで自動化することにより、業務効率を大幅に改善できます。
従来は、配送業者が伝票情報を手作業で入力していましたが、OCRを活用することで、スキャンするだけで荷物の詳細情報をデジタルデータとして取り込めます。
さらに、AI-OCRを活用すれば、手書きの伝票やフォーマットが異なる納品書も高精度で認識できるため、多様な物流書類の処理を自動化し、業務全体の効率化を実現できます。
法務や契約管理:契約書や申込書を自動入力する
法務部門では、契約書や申込書の管理にOCRを活用することで、検索性を向上させ、業務の効率化を図れます。
従来は、契約書の内容を確認する際に、紙の書類を手作業で探す必要がありました。しかし、OCRで契約書をデジタル化し、テキスト検索を可能にすることで、必要な情報を迅速に取り出せます。
また、AI-OCRを活用すれば、手書きの契約書やスキャンしたPDFの内容も正確にデータ化できるため、契約管理の精度向上につながるでしょう。
営業や顧客管理:先方の名刺をデジタル管理する
営業部門では、名刺をOCRでデータ化することで、顧客情報の管理を効率化できます。
従来は、名刺情報を手入力する必要があり、大量の名刺整理に時間を要していました。しかし、OCRを活用することで、名刺をスキャンするだけで自動的にテキストデータに変換され、顧客管理システム(CRM)への登録も容易になります。
さらに、AI-OCRを活用すれば、手書きのメモが書き加えられた名刺でも高精度でデータ化できるため、営業活動の効率化が期待できます。
OCR導入のメリット
- データ入力を自動化できる
- 入力のミスを削減できる
- 入力のコストを削減できる
- データの検索が容易になる
データ入力を自動化できる
OCRのメリットの1つ目としては「データ入力を自動化できる」というものが挙げられます。
手作業でのデータ入力は時間がかかりますが、OCRを活用することで、紙の書類やPDFに含まれる情報を自動的にデジタルデータに変換でき、入力作業を大幅に削減できます。
例えば、請求書やアンケートのデータをOCRで取り込むことで、手入力の手間を省き、業務を効率化できます。特に、大量の書類を扱う業務においては、作業負担の軽減につながるでしょう。
入力のミスを削減できる
OCRのメリットの2つ目としては「入力のミスを削減できる」というものが挙げられます。
人が手入力を行う場合、数字や文字の誤入力は避けられません。しかし、OCRを導入することで、文字認識技術を用いてデータを正確に読み取れるため、入力ミスを防止できます。
例えば、顧客情報や受発注データをOCRで読み取ることで、転記ミスをなくし、正確なデータ管理を実現できます。
入力のコストを削減できる
OCRの3つ目のメリットとしては「入力のコストを削減できる」というものが挙げられます。
データ入力業務は、人的リソースと時間を多く要するため、コスト負担が大きくなりがちです。特に、大量の書類を扱う企業にとって、手作業の削減が直接的なコスト削減につながります。
例えば、経理部門での請求書データ入力をOCRで自動化することで、入力担当者の作業時間を削減し、人件費を抑制できます。
データの検索が容易になる
OCRの4つ目のメリットとしては「データの検索が容易になる」というものが挙げられます。
紙の書類やスキャンしたPDFは、必要な情報を探すのに手間がかかりますが、OCRでテキスト化することで、キーワード検索が可能になります。
例えば、契約書や報告書をOCRでデータ化すれば、検索機能を使って必要な箇所を素早く特定できるため、時間短縮と業務効率化につながります。
OCR導入によるデメリット
- 導入や運用にはコストが発生する
- 画像の誤認識が発生する恐れがある
- 継続的なメンテナンスが必要になる
導入や運用にはコストが発生する
OCRのデメリットの1つ目としては「導入や運用にはコストが発生する」というものが挙げられます。
OCRソフトやAI-OCRサービスを導入するには、初期費用や月額料金が発生します。また、システムとの連携や運用体制の整備にも追加コストが必要になる場合があります。
解決策としては、無料トライアルを活用して、自社の業務に適したOCRソフトを選定することや、初期費用を抑えられるクラウド型OCRサービスの利用を検討するのもよいでしょう。
画像の誤認識が発生する恐れがある
OCRのデメリットの2つ目としては「画像の誤認識が発生する恐れがある」というものが挙げられます。
OCR技術は進化しているものの、手書き文字や特殊なフォント、画質の低い画像など、読み取りが難しいケースが存在します。そのため、最終的に手作業での修正が必要になることがあります。
解決策としては、AI-OCRを活用し、学習データを増やして精度を向上させることや、OCR処理の前段階で画像補正処理を施し、入力データの品質を高めることが挙げられます。
継続的なメンテナンスが必要になる
OCRのデメリットの3つ目としては「継続的なメンテナンスが必要になる」というものが挙げられます。
OCRシステムを導入した後も、新しい書類フォーマットに対応したり、認識精度を維持・向上させたりするために、定期的なメンテナンスが欠かせません。特にAI-OCRの場合は、継続的に学習データを更新していく必要があります。
解決策としては、クラウド型OCRを選択し、ベンダー側による自動アップデートを利用することや、定期的にOCRの認識精度を評価し、必要に応じて設定を最適化することも重要です。
OCRソフトの選び方と比較のポイント
- ①:認識精度を確認する
- ②:処理速度を確認する
- ③:導入形態を確認する
- ④:対応ファイルを確認する
- ⑤:価格や料金体系を確認する
- ⑥:セキュリティ機能を確認する
- ⑦:外部システムとの連携を確認する
①:認識精度を確認する
OCRソフトの選び方の1つ目としては「認識精度を確認する」という方法が挙げられます。
OCRソフトの最も重要な要素は高い認識精度です。特に日本語や多言語対応が必要な場合、認識率の違いが業務効率に大きく影響します。
例えば、Google Cloud VisionやABBYY FineReaderは、多言語対応かつ高精度な文字認識が特長であり、企業利用において高評価を得ています。
②:処理速度を確認する
OCRソフトの選び方の2つ目としては「処理速度を確認する」という方法が挙げられます。
業務用途では、大量の書類を迅速に処理する高速性が求められます。処理速度が遅いと業務全体が滞り、生産性に悪影響を及ぼします。
たとえば、Adobe Acrobat ProやReadirisは、バッチ処理機能を備えており、大量書類の連続スキャンでもスピーディな処理が可能です。
③:導入形態を確認する
OCRソフトの選び方の3つ目としては「導入形態を確認する」という方法が挙げられます。
クラウド型とオンプレミス型があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。クラウド型は柔軟性が高く、アップデートが容易ですが、データ保護の観点でオンプレミス型が好まれるケースも多いです。
たとえば、クラウド型のMicrosoft Azure OCRはリモートから利用でき、オンプレミス型のABBYY FineReader Serverは社内完結のセキュリティを重視しています。
④:対応ファイルを確認する
OCRソフトの選び方の4つ目としては「対応ファイルを確認する」という方法が挙げられます。
PDFや画像ファイルだけでなく、ExcelやWord形式への出力対応も業務効率を大きく左右します。多様なファイル形式に対応しているか事前に確認が必要です。
例えば、Adobe Acrobat ProではPDFやWord、Excelに変換が可能であり、幅広いファイル形式に対応している点が特長です。
⑤:価格や料金体系を確認する
OCRソフトの選び方の5つ目としては「価格や料金体系を確認する」という方法が挙げられます。
コストパフォーマンスを意識した選択が重要です。月額制や買い切り型など料金形態が異なるため、自社の利用頻度に応じた選択が求められます。
たとえば、Google Cloud Vision APIは従量課金制であり、利用頻度が少ない企業に適している一方、ABBYY FineReaderは買い切りライセンスが魅力です。
⑥:セキュリティ機能を確認する
OCRソフトの選び方の6つ目としては「セキュリティ機能を確認する」という方法が挙げられます。
業務用途では機密情報の取り扱いが多く、データ保護が重要です。暗号化機能やアクセス制限機能があるかどうかを確認する必要があります。
例えば、DocuWareやReadirisでは、高度なセキュリティ管理が実現されており、データ漏えいリスクを最小限に抑えることが可能です。
⑦:外部システムとの連携を確認する
OCRソフトの選び方の7つ目としては「外部システムとの連携を確認する」という方法が挙げられます。
ERPやCRMなど他のシステムとスムーズに連携できるかは、業務効率を高めるために重要です。API連携やWebhook対応があるかも確認が必要です。
例えば、Microsoft Power Automateと連携できるAdobe Acrobat Proは、ワークフロー自動化が可能であり、企業システムと密接に統合できます。
OCRの誤認識を防ぐためのポイント
- 高品質な画像データを使用する
- OCRに適したフォントを使用する
- OCRの実施前に画像の補正を行う
高品質な画像データを使用する
OCRの誤認識を防ぐためのポイント1のつ目としては「高品質な画像データを使用する」というものが挙げられます。
OCRの精度は、画像の解像度やコントラスト、ノイズの有無によって大きく影響を受けます。特に低解像度の画像では、文字がぼやけたり、潰れたりしてしまい、誤認識が発生しやすくなります。
解決策として、最低でも300dpi以上の解像度でスキャンすることや、背景のノイズを減らすために白黒モードで撮影することが推奨されます。また、スマートフォンで撮影する場合は、手ブレを防ぎ、明るい環境で撮影することも重要です。
OCRに適したフォントを使用する
OCRの誤認識を防ぐためのポイントの2つ目としては「OCRに適したフォントを使用する」というものが挙げられます。
OCRは、シンプルなフォントで、文字が均等に配置されているものを正確に認識する傾向があります。一方、手書きのようなフォントや装飾の多いフォント、文字の間隔が不揃いなレイアウトは、誤認識を引き起こしやすくなります。
特に、業務でOCRを活用する場合は、ゴシック体や明朝体などの認識しやすいフォントを使用し、文字を均等に配置することが重要です。また、表形式やリスト形式の文書では、枠線や区切り線をはっきりとさせることで、誤認識を減らせます。
OCRの実施前に画像の補正を行う
OCRの誤認識を防ぐためのポイントの3つ目としては「OCRの実施前に画像の補正を行う」というものが挙げられます。
OCRの精度を高めるためには、事前にOCRソフトの画像補正機能を活用して、ノイズや歪みを取り除くようにしましょう。特に、斜めに撮影された画像や文字が傾いている場合、OCRが正しく認識できないことがあります。
加えて、スキャナー利用時は原稿を固定し、画像の歪みを抑えることも、誤認識を防ぐうえでは重要な要素のひとつです。
まとめ
本記事では、OCRの概要を解説するのとともに、OCRの仕組みや従来のOCR技術とAI-OCRの違い、導入によるメリット・デメリット、選び方のポイントまで詳しく紹介しました。
企業の業務効率化やデジタル化の推進において、OCRの活用は欠かせないものとなっています。特に、AI技術の発展により、OCRの認識精度や処理能力は今後さらに向上していくと考えられます。
今後もITreviewでは、OCRソフトのレビュー収集に加えて、新しいOCRソフトも随時掲載予定です。掲載をご希望のベンダー様は、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。