CRMツールを使ってみたいが導入で失敗はしたくない─。CRM導入プロジェクトを任された誰もが、そう考えるのではないだろうか?
本記事では、CRM導入を成功に導くためのステップについて、事前に把握しておくべきポイントを紹介していく。
CRMの導入成功のカギは社内の目線合わせ
CRMはいろいろな機能や特徴をもつ製品があり、選定時には迷うことも多いと思う。その時に忘れてならないのは、顧客情報こそ企業の重要情報であるということである。
さまざまな業務に活用できるビジネスの要となる情報であるため、短期的なコストや手間を省くことを考えるのではなく、長期的に有効活用していくことができるかどうかという視点で製品選定をすすめたい。自社に合った製品を選定・導入することは、自社の業績向上に大きく役立つ。

CRMの導入を成功させるためには、まずは営業戦略やマーケティング戦略、商品戦略、顧客サポート戦略など、関係する部門のキーマンを集め、企業の成長のために重要な要素を社内全体で明確にして共通意識をもつことから始めることが有効である。
「CRM導入は全社的に意味のあるものだ」と社内の全てのキーマンにあらかじめ認識してもらうことは、その後の導入においても大いに助けとなるだろう。
CRMツールの導入手順を解説
CRMシステム導入に失敗するケースとしてよく挙げられるのは、CRMシステムの導入によってCRMそのものが自動的に実現されると考え、システムの導入自体を目的化してしまうことである。その点を踏まえながら、CRMツールの導入に際して必要される作業について確認してみたい。
作業1:目標を定める
CRMシステムとはCRMの取り組みを効率化するための道具にすぎず、どのようなCRMを展開して何を実現したいかの目的や目標がはっきりとしていないと、適切なCRMシステムを選ぶことは難しく、かつ、いかなるCRMシステムを導入しても、何をどうすべきかの判断に迷うことになる。
作業2:情報収集のプランを立て、それに沿ってシステムを選ぶ
ここで仮に、CRMの目標として、顧客と自社との関係情報を一元的に管理して、顧客ニーズへの理解を深め、その生涯価値を高めるためのマーケティング施策に活かすというゴールを掲げたとする。その次に必要とされるステップは、顧客ニーズの理解を深めるために必要な関係情報とは何かを見定め、それをどう収集し、データベースの鮮度を保つかの計画を立てることだ。
例えば、小売の事業者であれば、顧客ニーズへの理解を深めるには、店舗(Webか、実店舗かにかかわらず)での顧客の購買行動をとらえることが不可欠となる。となれば、POSや販売管理システムからデータを収集することが求められ、導入するCRMシステムには、それらのシステムのデータを自動的に取り組む仕組みが必要とされる。
また、B2Bビジネスを展開する企業が、顧客の生涯価値を高めるために自社と顧客(顧客企業)との関係性を包括的に把握したいと考えたとする。その場合には、マーケティング施策に関する情報と、顧客との取引に関する情報をすべて集めて、管理し、その鮮度を保つことが必要とされるが、その実現に向けては、それらの情報をどのように収集するかの計画を立てたうえで、情報収集のプロセスを効率化しうるCRMシステムを選り抜くことが重要となる。
さらに、既存顧客から収入を増やすのにプラスして、より多くの見込み客をつかみ、育成して、案件化のチャンスを広げようとするならば、MAの機能を持った(あるいは、MAツールとの連携が可能な)CRMシステムを選ばなければならないはずである。
作業3:何を可視化し、どんなアクションにつなげたいかを考える
CRMシステムの導入に際しては、データの活用で何を可視化したいのか、またそれをどのようなアクションにつなげたいのかも明確にしておくべきと言える。
データの分析で課題が可視化されても、課題の確認だけで終わり、肝心のアクションが一向に起こらないことが往々にしてある。同様に、CRMの取り組みによってホットリード(すぐにでも案件化につながりそうな見込み客の情報)が可視化されたにもかかわらず、それを受け取った営業部門が、そのリードに対してまったくアクションを起こさないこともある。これでは、CRMシステムを使うそもそもの意義が薄れ、結果として、「CRMシステムは役に立たない」という誤解が、社内に広がることになる。
作業4:運用のルール、体制を決めておく
CRMシステムの導入に当たっては、運用の体制やルールについても、あらかじめ決めておくことが大切である。例えば、以下のような事項を決めておくと、のちの混乱や問題の発生が抑えられるはずである。
システム管理者は誰にするのか
CRMシステムの管理者は、社内の情報システム担当者が適任と言える。ただし、情報システム部門が手一杯で、CRMシステムの管理に手が回らないと協力を拒まれる可能性もなくはない。そのリスクが少しでもあると思うのであれば、CRMシステムの導入前に、情報システム部門の協力を取りつけておくか、情報システム担当者の手を借りずとも、管理が行えるようなシステムを選り抜く必要がある。
顧客データの品質を誰が担保するのか
CRMシステムへのデータの入力は、大抵の場合、システムを利用する全員が行うことになるのでミスも生まれやすい。例えば、すでに登録されている顧客企業の情報を、新規の顧客企業として2重に登録してしまうケースは、CRMの顧客データベースによく見られる問題とされる。
また、入力された顧客名に表記のゆれがあると、同じ顧客企業が別個客としてコンピュータに判断されてしまう場合がある。さらに、M&Aやブランド戦略などによって顧客企業名に変更があった場合、それを正しく顧客データベースに反映させないと、既存顧客が新規顧客として認識されるケースもある。
このようなデータの品質にかかわる問題をそのままにしておくと、データの集計・分析が正しく行えなくなったり、同じ顧客に、同じ内容のメールマガジンを送付してしまったりという問題を引き起こす。それを回避するには、データを入力する一人一人に、データ入力のルールに則りながら、正しくデータを入力するよう強く求め続ける必要があるが、それだけでビジネスの前線で忙しく働くスタッフ全員のミスを完璧に防ぐことは難しい。そこで、データ品質の維持に取り組む誰かを決めておく必要があるのである。
システム活用の現場への定着を誰が責任を持って推進するのか
CRMシステムは、現場での活用が定着しなければ効力を発揮せず、結果として、導入が失敗に終わるリスクが膨らむ。ゆえに、CRMシステムを現場に定着させる役割を担うのは誰かを決めておくことが重要と言える。ちなみに、営業部門へのCRMシステムの導入では、営業担当者各人がデータ入力で相応の負担を背負うことになる。そのため、部門・部署の上長が、CRMシステムの活用に強制力を働かさないと、現場になかなか定着しないのが一般的とされる。
顧客データベースのオーナーは誰(どの部門・部署)なのか
CRMの顧客データベースは、そのオーナーがどの部門・部署かを明確に定めておかないと、販促活動での顧客データベースの活用を巡り、部門・部署間の軋轢を生む可能性がある。したがって、顧客データベースのオーナーを明確にしておき、顧客データベースの活用に関して最終的な決定権を持つのがどこかを明確にしておくことが大切と言える。
CRMシステムの構築作業とは?
CRMシステムの構築において、どのような作業が発生するかは、導入するCRMシステムにタイプによってさまざまであり、一概にこうと言うのは難しい。
ただし、CRMシステムは、基本的に顧客データベースを土台にした業務システムであるので、大抵の場合、顧客の基本情報に紐づくかたちで、取引実績や案件情報、コミュニケーション記録、商談履歴などが管理される階層構造を成している。CRMシステムの構築に当たっては、こうしたデータベース構造に対する理解が必要で、データベースシステムを扱った経験のない人にとっては、やはりハードルが高い。顧客の基本情報(顧客マスター)の登録画面を見て、この項目で本当にいいのかどうかの判断もつかない可能性もある。
また、CRMシステムでは、利用者によるデータ登録がしやすいこと、利用者が見たい顧客の情報にすぐにアクセスできること、さらには、顧客情報を適切な切り口で見えるようにすることかが重要と言えるが、そのためにデータの検索と検索結果の表示画面、さらにはレポートの出力画面やダッシュボードをどう設定すればよいかが分からない場合もある。
もちろん、情報システム部門の担当者であれば、CRMシステムのマニュアルを読むだけで、技術的なところはすべて理解できるかもしれない。ただし、マーケティング部門や営業部門の担当者が、マニュアルだけでCRMシステムの構築を進めるのには無理がある。そこで、マーケティング部門や営業部門、情報システムの担当者がチームを組んで、ことに当たることが必要されるが、3者ともに現業に忙殺され、時間が取れず、なかなかプロジェクトが前に進まなく可能性もある。
そこで、信頼の置ける外部のITベンダーの協力を仰ぎ、活用のフェーズに突入するまでのシステム構築を委託するという一手が浮上することになる。
その際、留意すべきは、最初のカットオーバーの段階であまり完璧を求めすぎないことである。CRMシステムでは、最初の段階で現場の要望をすべて取入れようとするあまり、なかなかシステムの完成に至らないケースが間々あるとされる。そのような事態に陥らないためにも、「CRMのシステムは、活用しながら育てていくもの」という発想の下、どうにか活用できるレベルに至った段階で開発を始めるのが得策と言える。またそうしたほうが、開発の外注費用も低く抑えられるのである。
オンプレミスか、クラウドか
CRMシステムの導入に際しては、オンプレミスの環境に導入するパッケージ型とクラウド型のどちらを選ぶかという問題もある。その選択の基準は明快で、顧客情報という秘匿性の高い情報を社内に置くか、それとも社外に置く決断が下せるかどうかである。
実のところ、有力ベンダーのクラウドCRMシステムの場合、サービス基盤(データセンター)は大抵の企業のオンプレミス環境よりもセキュリティが強固で、クラウド型を選んだほうが、顧客情報のセキュリティを高いレベルで保てる可能性は高い。システムの拡張性という点でも、パッケージ型よりも、クラウド型のほうが高く、外部のさまざまなサービスとの連携も容易となる。しかも、クラウド型のほうが、稼働環境(サーバハードウェアやストレージ)をオンプレミス環境に導入・設置する必要がない分、オンプレミス版に比べて初期投資が少なくて済み、導入がキャッシュフローに与えるインパクトも小さく抑えられる。
CRMのシステムに限らず、ソフトウェア製品はパッケージを一括で購入したほうが、そのソフトウェアの機能をサービスとして使い続けるよりも、中長期的には安上がりになるとされている。ただし、ソフトウェアパッケージを購入した場合、導入後に“使いモノにならない”と判断して、使用をすぐに(減価償却前に)止めてしまうと不良資産となり、多額の損が発生するリスクがある。対するクラウドサービスは、あくまでもサービスであって資産ではなく、 “使いモノにならない”と判断した際には、(大抵の場合、契約期間に縛りはあるものの)他のサービスに切り替えればいいので、多額の“損”が発生するリスクが少ないと言えるのである。
一方、クラウド型のソフトウェアは、テナントビルと同じように、同じ装備(機能)を多数で共用することで、コスト効果を生む仕組みになっている。したがって、クラウド型は通常、システムが提供する機能をそのまま使うことを前提にしており、カスタマイズには制約がある。その意味で、クラウド型よりも、オンプレミス型のほうが、カスタマイズの自由度は高いと言える。
とはいえ、上述したとおり、カスタマイズには相応のコストがかかるのが通常で、オンプレミス型を使うにしても、クラウド型を使うにしても、あまりカスタマイズを行わないほうが無難と言える。また、CRMシステムの中には、プログラムコードを記述することなくドラック&ドロップ操作で機能追加が行えるツールを用意しているものがある。どうしても、機能追加が必要な場合は、そうしたツールを使い開発を内製したほうが良いといえる。
なお、同じクラウド型でも、自社で保有のデータセンターを通じてサービスを提供している場合と、AWS(Amazon Web Services)などのクラウドプラットフォームを活用してサービスを提供している場合の2とおりがある。前者の場合、サービスのセキュリティレベル/可用性レベルを自社でコントロールできるが、後者の場合、AWSなどのクラウドプラットフォームのセキュリティ/可用性レベルに依存する格好となる。これによって実質的なセキュリティレベルや可用性に大差が出ているとは言えないが、この辺りの基盤管理・運用スタンスの違いが気になる方は、細かな違いをチェックされることをお勧めする。
CRMのよくある失敗例…製品選定時には運用イメージを把握しよう
CRMはさまざまな機能をもっており、企業内の多くの業務の効率化が見込めるツールである。本当に導入すれば効果があるのか?ここでは、製品選定をするにあたり注意すべき点を、良くある失敗の事例とともに紹介する。
・失敗例1:ユーザビリティを無視して導入したCRM
CRMの導入は、情報システム部門が存在する場合は情報システム部門の担当者が主導して進めることが多い。導入前に各部門の管理者からヒアリングした意見のみを参考に製品選定すると、実際に現場で抱えている本当の課題とのギャップが生まれ、思った通りの課題解決が行えない場合がある。製品を選定する際は無料トライアル期間中に、部門の垣根を越えて現場担当者に使ってもらい、意見を収集する機会を持つことをお勧めしたい。
・失敗例2:機能が多すぎて活用されないCRM
CRMはさまざまな機能をもった製品が存在するため、いつか利用できそうな機能だからと全てを一度に取り入れてしまう方が見受けられる。コスト高になってしまうのはもちろんであるが、それだけではなく、使えない社員が出てしまい、せっかく導入しても活用されずお蔵入りということも少なくない。CRMによって得意とする機能が異なるため、汎用性を優先するか、特定の経営課題に特化した製品を選定するかで、社員の使いやすさも大きく変わる。製品を選定する際は、対象とする全ての社員が利用できるものであるかの視点は前提条件といえよう。
・失敗例3:膨大な入力項目による現場の疲弊
CRM導入をきっかけに、今後は顧客に関するあらゆる情報を蓄積していきたいと考えている方は多いと思う。しかし、CRMは長期的に利用するツールであり、あまりにも多くの入力項目を用意すると、毎日利用する社員が疲労してしまう場合がある。業務を効率化するために導入をしたはずが、情報を更新することに疲れてしまっては本末転倒である。
どのような情報を残す必要があるのかをあらかじめリスト化し、それらが残しやすい製品を選定することを推奨する。さらに導入後にカスタマイズや拡張が行いやすい製品であるかについて確認をしておくことで、将来にも備えられる。
・失敗例4:多大なカスタマイズによるコスト増
製品選定をする際に、社員にスムーズに利用してもらうために、現行の業務をそのままCRM導入後も継続できるよう、多数のカスタマイズを希望される方も多い。このような場合、コストはもちろん大きく膨れあがる。またカスタマイズ作業のため、利用開始までに非常に長い時間を必要とする場合がある。
CRM導入の成功には関係者全員の利用が必要不可欠ではあるが、CRM導入の目的は「それまでと同じことを続ける」ことではなく「これまでの方法では実現できなかった経営課題を解決する」ことである。
CRMで何を実現したいのかをいま一度明確にし、それが対象の製品では解決ができるかを第一に製品の選定を行おう。