近年、ランサムウェアやフィッシング詐欺などの攻撃が増加しており、多くの中小企業が深刻な損害を被っています。被害額は数百万円から数千万円に及ぶこともあり、事業継続が困難になるケースも少なくありません。
特に中小企業ほど、人的リソースの不足により技術的なセキュリティ対策が遅れがちであるため、攻撃者にとっては格好の標的となりやすく、被害を受けた場合の事業への影響も甚大です。
本記事では、中小企業におけるセキュリティ事故の被害額や実際の被害事例の解説に加えて、そこから学ぶ最低限とるべき対策についても詳しく解説していきます!
この記事を読むことで、中小企業に起こりがちなセキュリティ事故の全体像を把握し、自社に適した対策を検討するためのヒントを得ることができるでしょう!
目次
中小企業のセキュリティ被害額の実態
中小企業がセキュリティ事故によって被る損害額は、規模や業種によって異なりますが、平均的な被害額は数百万円から数千万円に及ぶことが多いです。
例えば、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が発表した『情報セキュリティ白書』によると、中小企業のセキュリティ事故による平均被害額は約1,000万円とされています。この金額には、業務停止による売上損失や、顧客情報漏洩に伴う賠償金、復旧費用などが含まれます。
さらに、ランサムウェア攻撃の場合、身代金の要求額が数百万円に達することもあり、これに加えてシステム復旧費用や信用回復のためのマーケティング費用が発生するため、中小企業にとっては非常に深刻な被害です。最悪の場合には、事業継続が困難になるケースも少なくありません。
中小企業のセキュリティ被害額の内訳
セキュリティ事故による被害の内訳と発生する費用については、主に以下のような項目に分けられます。
| 項目 | 内容 | 平均費用(目安) |
|---|---|---|
| 顧客情報の漏洩 | 顧客データの流出にともなう賠償金や信用回復のための費用 | 500万円~1,000万円 |
| 業務停止の損失 | サイバー攻撃によるシステム停止や業務中断による売上損失 | 300万円~500万円 |
| 復旧対応の費用 | システムの復旧やデータの復元にかかる費用 | 200万円~400万円 |
| 身代金の支払い | ランサムウェア攻撃による身代金の要求額 | 100万円~300万円 |
| 法的対応の費用 | 訴訟や法的責任にともなう弁護士費用 | 100万円~200万円 |
企業の規模や業種によって異なりますが、上記のような費用は中小企業にとっては非常に大きな負担となります。特に、顧客情報漏洩による信用失墜は、長期的な売上減少や顧客離れを引き起こす可能性があります。
また、業務停止による損失は、製造業やサービス業など、日々の業務が売上に直結する業種においては特に深刻な問題です。このような被害を最小化するためにも、最低限のセキュリティ対策は必要不可欠というわけです。
実際にあった中小企業のセキュリティ被害事例
- 株式会社イセトー:ランサムウェア攻撃の被害事例
- 株式会社ベルソニカ:不正アクセス攻撃の被害事例
- 株式会社マリンネット:SQLインジェクション攻撃の被害事例
株式会社イセトー:ランサムウェア攻撃の被害事例
京都市に本社を置く印刷/データ処理業の株式会社イセトーは、2024年5月26日、同社のサーバーや端末がランサムウェアに感染し、システムが暗号化される重大インシデントを公表しました。
この攻撃の特徴は、自社だけでなく、同社が扱っていた多数の委託先データまで影響が拡大したことで、一部の報道によると150万件規模の個人情報が外部流出した可能性が指摘されています。
ランサムウェアの被害は、直接的なデータの暗号化だけでなく、業務委託先の信用問題にも発展するため、委託元と委託先の双方でサプライチェーンを意識したセキュリティ対策が不可欠です。
特に、受託業務に大量データが集中しがちな中小企業は、攻撃者にとって“高い価値を持つデータの集積点”となりやすく、優先的な標的になりうるという現実を強く浮き彫りにしました。
▶ 出典:ランサムウェア被害の発生について|株式会社イセトー
株式会社ベルソニカ:不正アクセス攻撃の被害事例
静岡県にある自動車部品メーカーの株式会社ベルソニカは、2023年9月に発生した不正アクセスによって、社員・元社員・取引先などの個人情報1,035件が流出した可能性を公表しました。
同社の発表によると、9月22日にサーバーへの不正侵入を検知し、調査の結果、取引先担当者467件と社員および元社員568件の情報が持ち出された可能性があることが判明しました。
流出した情報には、氏名や住所、生年月日や電話番号、メールアドレスなど、個人を特定できる項目が多分に含まれているということで、管理体制の脆弱性が指摘された事件となりました。
特に製造業では、工場停止が甚大な損害に直結するため、攻撃者にとっては魅力的な標的です。中小規模の部品メーカーにおいても、セキュリティ対策が必須であることを示した事例といえます。
株式会社マリンネット:SQLインジェクション攻撃の被害事例
Webサイトの運営やオンラインサービスの提供を行う株式会社マリンネットでは、2024年の上半期に第三者からのサイバー攻撃である、SQLインジェクション攻撃を受けたことを公表しています。
SQLインジェクションとは、Webサービスやアプリケーションなどの入力フォームに悪意あるコードを注入することで、データベースに対して不正な操作を行う古典的なサイバー攻撃手法のことです。
SQLインジェクションは古典的な攻撃手法でありながら、フレームワークの更新不足や入力チェックの欠如、適切なWAFの未導入などの理由で、現在も有効に機能してしまうことがあります。
今回のマリンネットの公表では、流出件数や停止期間などの詳細は明かされていませんが、中小規模のWeb企業でも、技術的な脆弱性を狙った攻撃は日常的に発生していることがわかります。
▶ 当サイトへの不正アクセスによるメールアドレス流出の可能性に関するお詫びとお知らせ|マリンネット
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策5選
- ①:パスワード管理を徹底する
- ②:ファイアウォールを設定する
- ③:ソフトウェアの更新を定期的に行う
- ④:データバックアップを定期的に行う
- ⑤:従業員へのセキュリティ教育を行う
①:パスワード管理を徹底する
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策の1つ目としては「パスワード管理を徹底する」という方法が挙げられます。パスワードは企業の情報資産を守るための最初の防御線であり、定期的な更新や類推されにくい文字列の設定など、適切に管理することが重要です。
特に中小企業では、パスワードの使い回しや共有アカウントの乱用が弱点になりがちです。昨今では、中小企業を踏み台に大企業のサーバーへと侵入し、不正アクセスや情報流出に繋がってしまうケースが多いため、必ず対策しておきたい項目と言えます。
▶ 解決できるサービス:パスワード管理アプリ
パスワード管理アプリとは、ユーザーが複数のオンラインサービスやクラウドサービス、Webサイトなどに登録している各種パスワードを安全に管理するためのツールです。
パスワード管理アプリの導入によって、ユーザーが使用するパスワードを一元管理し、パスワードを自動生成したり、暗号化して保存したり、あるいはサイトごとに異なる強力なパスワードを使用するための手助けをします。
②:ファイアウォールを設定する
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策の2つ目としては「ファイアウォールを設定する」という方法が挙げられます。ファイアウォールはネットワーク内外の通信を監視し、不正なアクセスをブロックすることができるため、非常に重要かつ初歩的なセキュリティ対策です。
特に中小企業では、外部からの攻撃に対するセキュリティ防御が不十分な場合が多いため、ファイアウォールの導入は必須と言えます。さらに、定期的な設定の見直しやバージョンの更新などを行うことで、最新の脅威にも対応することができます。
▶ 解決できるサービス:セキュリティソフト
セキュリティソフトとは、コンピュータやスマートフォン、タブレットなどのデバイスをウイルスやマルウェア(悪意のあるソフトウェア)から守るためのソフトウェアです。
セキュリティソフトの導入によって、デバイスに侵入してくる危険なプログラムを検出し、削除したり、隔離したり、またはその動作を防止したりすることができるため、企業のデバイスを保護するためには欠かせないツールです。
③:ソフトウェアの更新を定期的に行う
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策の3つ目としては「ソフトウェアの更新を定期的に行う」という方法が挙げられます。おろそかになりがちなソフトウェアのアップデートですが、セキュリティホールを修正し、最新の脅威に対応するために重要な役割を果たします。
例えば、OSやアプリケーションの更新を怠ってしまうと、既知の脆弱性を悪用されるリスクが高まります。こうした脆弱性を放置してしまうと、企業のネットワークやデータが攻撃の対象となる可能性が高まってしまうため、忘れずに更新しましょう。
▶ 解決できるサービス:セキュリティ診断サービス
セキュリティ診断サービスとは、企業や個人のITシステムのセキュリティ状態を評価し、潜在的な脆弱性やリスクを発見して対策を講じるための専門的なサービスです。
セキュリティ診断サービスでは、一般的には専門のセキュリティエキスパート(ホワイトハッカー)が診断を実施するものであり、診断の結果をもとに社内に潜むセキュリティリスクを評価し、それぞれのリスクに合った改善策を提案します。
④:データバックアップを定期的に行う
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策の4つ目としては「データバックアップを定期的に行う」という方法が挙げられます。クラウドストレージや外部のハードディスクにデータのバックアップを保存することは、万が一のデータ消失に備えるための重要な施策です。
例えば、ランサムウェア攻撃やハードウェアの故障、物理的な災害などによって大切なデータが失われた場合でも、あらかじめバックアップを取っておくことで迅速な復旧が可能です。これにより、業務停止のリスクを最小限に抑えることができます。
▶ 解決できるサービス:クラウドバックアップツール
クラウドバックアップツールとは、ローカル環境にある社内のデータをインターネット上の「クラウド」にバックアップするためのツールやサービスのことです。
ローカルのハードディスクや物理的なストレージデバイスではなく、インターネットを介してリモートのサーバーにデータを保存することで、万が一の事態が発生した場合でもデータ損失のリスクを大幅に軽減することができます。
⑤:従業員へのセキュリティ教育を行う
中小企業が最低限やるべきセキュリティ対策の5つ目としては「従業員へのセキュリティ教育を行う」という方法が挙げられます。標的型の攻撃が流行している昨今、従業員一人ひとりがセキュリティ意識を高く持つことは、企業全体の防御力を高めるためには必要不可欠です。
例えば、フィッシング詐欺やマルウェア感染を防ぐためには、従業員が攻撃手口を理解し、適切に対応できるスキルを身につける必要があります。訓練によって、怪しいファイルやURLを開くなど、人的ミスによるセキュリティ事故を防ぐことが可能です。
▶ 解決できるサービス:セキュリティ意識向上トレーニング
セキュリティ意識向上トレーニングとは、社員や関係者が日常業務で直面するサイバー脅威を理解し、安全な行動を取れるようにするための教育・啓発プログラムです。
一見するとアナログな手法に見えてしまいますが、近年頻発しているランサムウェア攻撃や標的型メール攻撃など、ファイアウォールやウイルス対策ソフトなどの技術対策だけでは防げない「人のミス」を減らす上では非常に効果的です。
まとめ:事故のリスクを最小化するための工夫が必要!
本記事では、中小企業に起こりがちなセキュリティ事故の被害額や実際の事例、そして、被害事例から学ぶ最低限とるべき対策について詳しく解説してきました。
セキュリティ事故は、業務停止や顧客情報漏洩といった重大なリスクをともなう一方で、対策システムの導入やバックアップ体制の構築、外部専門家の活用など、適切な対策を講じることでリスクを大幅に軽減することが可能です。
そのため、セキュリティ対策を成功させるためには、従業員への教育やシステムの定期的な見直しといった導入前の工夫が不可欠です。また、限られた予算の中で効果的な対策方法を選ぶことも重要なポイントのひとつといえます。
本記事を参考に、ぜひ自社に合ったセキュリティ対策を検討し、セキュリティ事故のリスクを最小化するための第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?