建築向けのCADでは、基本の2D作図やドキュメント作成などの機能に加え、建築設計やインテリア設計に便利なツールやオブジェクトが備わっています。近年では、プレゼンテーション向けの3DモデルにVR技術を取り入れたものや、建物の情報データを図面設計や施工管理に活用する「BIM」に対応したCADも登場しています。
一般的な汎用CADと比べて、建築分野に実用性の高いツールが備わっているため、設計業務の効率化に向けて導入を検討してみましょう。本記事では、建築分野で活用されているCADを5つご紹介します。
目次
建築CADとは?
建築CADとは、建築設計に特化したCADのことです。ビルや住宅などの建築時に必要な基本設計図・実施設計図・施工図・構造図・設備図などの図面を設計できる機能を備えています。ドア・窓・壁などを簡単に作図したり、テンプレートを使用したりできるなど、建築設計する上で便利な機能を搭載しているのが特長です。
従来の手書きではなく建築CADを利用することで、図面の作成や修正の時間を短縮できます。データで管理できるため、Webで図面を共有しやすいのもメリットです。
CADの種類
CADといっても、さまざまな種類があります。それぞれ可能なことや特長が異なるので、CADの種類と建築業界における使われ方を解説します。
2D CADと3D CAD
2D CADとは、立体を2次元(2D)で表現するCADのことです。線分・円弧を用いて、平面図・立面図などを描きます。建築業界では、建築物の間取りなどを作図するときに使用されています。一方、3D CADとは、立体を3次元(3D)で表現するCADのことです。直方体や球体を用いて、立体的な造形物を描きます。建築業界では、建築物の完成図などを作成するときに使用されています。
3D CADのほうが2D CADより実現できることが多いものの、どちらかが優れているわけではありません。建築物の仕上がりをイメージしたいときや、体積・表面積を算出したいときは3D CAD、建築物の断面図を切り出したいときには2D CADというように、用途によって使い分けられています。
汎用CADと専用CAD
汎用CADとは、どの分野の設計・製図にも通用する機能を備えたCADのことです。対して専用CADは、特定分野の設計・製図に特化した機能を備えたCADを指します。専用CADに当たるのは「機械設計CAD」「電気CAD」などで、建築CADも専用CADの1つです。
たとえば、専用CADの1つである「機械設計CAD」には部品表を自動で作成する機能、「電気CAD」には電気配線専用コマンドなどが備わっています。同様に「建築CAD」には、壁・階段を自動で挿入する機能などが備わっています。汎用CADにも基本的機能は備わっているものの、業界に特化した設計・製図を行いたいのであれば、専用CADを使用したほうが効率的に作業を進められるでしょう。
建築系3D CADの種類
建築系3D CADには、ハイエンドCAD・ミッドレンジCAD・ローエンドCADの3種類があります。3つの主な違いは、備わっている機能です。
ハイエンドCAD
- 高い機能を備えた3D CADで、複雑な設計を高速で処理できる。
- 部品数が多い航空業界・自動車業界などで使用されている。
- 高額かつ独学での習得は難しい。
ミッドレンジCAD
- ハイエンドCADほどではないが、多くの機能が備わっている。
- 機械業界・家電業界などの幅広い業界で使用されている。
- ハイエンドCADより低価格で、直感的に操作しやすい。
ローエンドCAD
- 基本的な機能は備わっているが、実務で使うには不十分である。
- 個人ユーザーやCAD初心者に使用されている。
- 無料ソフトもあり、ビギナーでも操作しやすい。
建築設計の実務に使用したいなら、ミドルレンジCADが向いているでしょう。ただし、3D CADに不慣れな方や、これから習得したい方は、ローエンドCADを導入して操作に慣れるのもおすすめです。
建築CADソフトの選び方
まずは、自身が使うパソコンのOSに対応している建築CADを選びましょう。多くの建築CADはWindowsに対応しているものの、Macに対応していないケースも少なくありません。また、自分のパソコンがソフト推奨のスペックをクリアしているかも確認しましょう。
特に3Dモデリングデータを扱う場合は、グラフィックボードが重要です。CADの使用を前提に最適化されていることはもちろん、高スペックなボードを搭載したパソコンが推奨されます。
次は、自身に必要な機能が備わっているか確認しましょう。建築CADは高機能なほど高額な傾向にあり、不要な機能があると費用が無駄になります。資格取得が目的で建築CADを導入したい方は、試験内容や指定ソフトを確認してください。
たとえば「建築CAD検定試験」は建築専用CADでは受験できず、汎用CAD「AutoCAD」「Jw_cad」「AutoCADLT」「Vectorworks」が指定されています。
「オートデスク認定ユーザー」は「AutoCAD」「Revit」「Fusion 360」のいずれかを使いこなせると証明する資格なので、いずれかのソフトを選ぶとよいでしょう。資格取得する場合には、実技試験にも考慮することが重要です。
「2次元CAD利用技術者試験1級」の実技試験では、DXFデータで保存した成果物の提出を求められます。DXFデータに対応しているのは、「Jw_cad」「AR_CAD」などです。
最後に、建築CADの中には海外製もあります。特に初心者の場合、日本語に対応しているソフトや日本語マニュアルがあるソフトを選ぶと安心です。加えて、営利目的で使用したい方は、商用可能な建築CADを選びましょう。
業界で多く利用されているものもチェック
どのソフトを導入しようかと迷っている方は、建築業界で多く利用されているCADを選ぶのも1つの方法です。建築業界で普及しているということは、実務で利用する可能性が高いということ。建築業界のみならず幅広い業界で広く普及しているのが、AutoCADです。人材不足の現代においてはマッチング率を高めるため、AutoCADの使用経験を採用時の応募資格とするケースも少なくありません。
また、AutoCADは有名なので、操作方法に関する書籍が多く学びやすいのもメリットです。就職先で使用する可能性も高いため、ソフト選びに迷ったらAutoCADを導入するのも1つの方法でしょう。
AutoCAD

AutoCAD(オートキャド)とは、オートデスク株式会社が提供するCADです。世界基準のCADとして幅広い分野で導入されており、高度な2D作図から3Dモデリング、ビジュアライゼーションまで充実した機能が備わっています。その中で業種別に最適なツールセットが選べるようになっており、建築設計やドキュメント作成に特化した「AutoCAD Architecture(オートキャドアーキテクチャ)」があります。
単一図面において既設図面や解体図面などを用いた改築図面が表示できる「リノベーション機能」をはじめ、8,000以上にも及ぶドアや窓などの要素を、建築オブジェクトとして利用することも可能です。建築製図に便利なライブラリやキーノートツールを活用することで、規格に基づいた寸法設計や注釈付けが容易となり、よりスピーディかつ効率的に設計図面を作成できます。
AutoCADの特長
・AutoCADの標準機能に加え、建築設計に特化した機能を搭載
・豊富なオブジェクトを使用した、設計図面やドキュメントを作成可能
・既設、解体、新設を単一図面で調整できる「リノベーション機能」
・2D断面図や立面図を平面図から作成できる
・「Roombook機能」で同じ部屋の内装を複数管理できる
AutoCADの対応OS
Windows
AutoCADの参考レビュー、口コミ
ド定番CADソフト
利用者が多いので、問題があっても答えてくれる人が多い。同業に転職する人もAutoCADを使える人が多いので、使えるようになっておいた方が良いソフトです。
コマンド操作が優秀で、コマンド操作のみで簡単な図形が描けるし、さらに突き詰めていけばある程度の自動化も可能。
参考:https://www.itreview.jp/products/autocad/reviews/66742
業界標準あっての安定さ
これまでフリーソフトCADで図面を見る事が多くありましたが、ズレや未対応もあったりで困る事があったためAutoCADを導入しました。年々アップデートしてるのもあり、操作性もよいです。特に3D機能が年々強化されているためこれまでは、アレコレしていたのが、不要になっており、活躍度が高くなっています。
参考:https://www.itreview.jp/products/autocad/reviews/67055
Vectorworks Architect

Vectorworks Architect(ベクターワークスアーキテクト)とは、エーアンドエー株式会社が提供する建築設計向けのCADです。基本製品である「Vectorworks Fundamentals(ベクターワークスファンダメンタルズ)」が2D CADと3D CADが備わった汎用CADであるのに対し、本製品は建築設計、内装、設備、BIMなどに活用できる専門機能が加わっています。
ドアや窓の作成をはじめ、カーテンウォールや屋根の軸組作成などの機能を豊富に搭載。3Dデータを活用したインテリア設計、BIMに対応した空間計画も可能です。作成したモデルはワークシートに集計して活用できるため、設計工数の削減や施工ミスを防ぎ、建築設計プロセスを効率化します。BIM活用に向けた建築設計機能を必要とする現場に適しています。
Vectorworks Architectの特長
・スペース機能によりBIMに活用可能
・展開図を一括生成できるビューボード機能
・データのタグ付けによる作業の効率化
・3Dモデルの2D図面化がカスタマイズ設定により可能
Vectorworks Architectの対応OS
Windows、Mac
Vectorworks Architectの参考レビュー、口コミ
初心者にも扱いやすいCAD
JWWなどと違って、インターフィスがわかりやすく初心者からでも使い方をマスターし易いCADソフトだと思います。今まで使用していたCADソフトと違って、色付けや写真の貼り付けがめちゃくちゃ簡単です。DXFへのインポート・エクスポートも簡単にできます。
参考:https://www.itreview.jp/products/vectorworks-architect/reviews/179915
SketchUP

SketchUP(スケッチアップ)とは、米国Trimble社が開発・提供する建築向け3D CADです。3Dモデル作成がブラウザ上でできる無料版がありますが、有料版では建築や住宅設計に特化したプロ向けの「SketchUP Pro(スケッチアッププロ)」が提供されています。
SketchUP Proの魅力は、基本の2D作図から3Dモデリングだけでなく、CGやVR技術を活用したモデル表示機能が備わっていることです。作成したモデルをHMDでVR再生できるため、住宅販売やプレゼンテーションの現場で役立てられます。
また、CADデータはクラウド上で保存されるため、大容量データをデスクトップに抱える必要がなく、プロジェクトの共同作業を効率化します。豊富な3Dツールを直感的な操作で扱えるため、建築向けCADの入門用として適しているでしょう。
SketchUPの特長
・直感的操作で3Dモデルを簡単に作れる
・CGやVR技術によるVRモデル表示が可能
・プロジェクトを独自仕様にカスタマイズ可能
・クラウド上で保存、共有が可能
・豊富な拡張機能
SketchUPの対応OS
Windows
SketchUPの参考レビュー、口コミ
CADになれていない人が多い企業におすすめ
建物の数量を確認して積算する仕事をしています。私の部署はCADに触れたこともない人が多いですが、シンプルな操作方法の為、使いやすいです。数量の確認も簡単にできます。
参考:https://www.itreview.jp/products/sketchup/reviews/136033
ARCHITREND ZERO

ARCHITREND ZERO(アーキトレンドゼロ)とは、福井コンピュータアーキテクト株式会社が提供する建築・土木分野の3D CADです。部屋の間取りや屋根といった2D図面データからすばやく3Dモデルを作成し、設計業務に必要な図面作成や書類、建築CGパースなどを一貫して作成できます。
特に注力しているのは、CGパースを活用した多彩なプレゼンテーションです。内観や外観だけでなく、ウォークスルーしながら日当たりなどをシミュレーションできる「ARCHITREND リアルウォーカー」や、CAD作成したモデルをVRで体験できる「ARCHITREND VR」などがあります。
完成形を見ることができない注文住宅やリノベーションなどの提案・プレゼンに役立てられるでしょう。その他、建築にかかわる法改正に対応した書類作成や、省エネ計算なども可能となり、あらゆる設計スタイルにおいて建築プロセスを効率化できます。
ARCHITREND ZEROの特長
・建築CGパースを活用した多彩なプレゼン機能
・実施設計から確認申請まで、あらゆる業務にすばやく対応
・S造やRC造に対応した構造設計が可能
・プランデータの集計&積算による徹底した利益確保
ARCHITREND ZEROの対応OS
Windows
ARCHITREND ZEROの参考レビュー、口コミ
直感的でわかりやすい
営業担当の方に利用してもらっています。ドラッグアンドドロップだけである程度の間取りが表現できるため、プレゼン作成にかかる時間が大きく短縮できます。
パース出力もできるため、商談の多い営業担当の方から好評です。
参考:https://www.itreview.jp/products/architrendmodelio/reviews/180583
ArchiCAD
ArchiCAD(アーキキャド)とは、ハンガリー企業のグラフィソフトが開発・提供している建築向け3D CADです。3Dモデリング機能のほか、部材や各要素の情報をモデルにインプットして設計を行う「BIM」に対応しています。設計の流れに沿って自然にBIMデータを格納できるほか、設計段階で必要な情報をその都度追加できるため、効率を落とさず設計が可能です。
BIMデータで各要素に属性を持たせることで、さまざまな角度から図面を切り取れるほか、設計構造が視覚的に認識しやすくなる、各図面の整合性が保てるなどのメリットが得られます。設計図面の作成ミスや手戻りを減らせるため、設計プロセスの効率化が期待できるでしょう。
また、作成したモデルには複数人が同時にアクセスできるほか、タブレットを利用するなど、各チームや取引先とのコミュケーションも円滑化します。BIMを活用したCADソフトで設計フローの改善を目指す企業に適しています。
ArchiCADの特長
・BIM対応による正確かつ整合性のある設計
・3Dモデルや図面からあらゆる情報を抽出、活用可能
・意匠設計と構造設計のワークフローを効率化
・レイヤーの概念で操作できるため習得しやすい
・モバイル端末でも3Dモデルデータを扱える
ArchiCADの対応OS
Windows、Mac
ArchiCADの参考レビュー、口コミ
非常に優秀なCADソフト
既存オブジェクトの利用が非常に便利。
柱や梁等、自由な寸法で気軽にモデリングすることができる。レンダリングの質感も悪くない。
参考:https://www.itreview.jp/products/archicad/reviews#review-8496
建築業界の課題クリアに向けたCAD導入
設計フローの効率化に欠かせないCAD。しかし、これまで設計業務に使用されていた「2D CAD」だけでは課題点も多く存在しています。
2D CADでは、施工段階にならないと設計上のミスに気付きにくく、迅速に修正や変更ができないなどの課題があります。手戻りによって工数が増えることで工事が長期化し、利益確保ができないなどのリスクも考えられるでしょう。
複雑化する設計フローを効率化するためには、建築分野のニーズに対応したCADが必要です。特に必要性が高いとされるのは、図面やドキュメント作成の時間を短縮する自動作成機能をはじめ、3D CADによる視覚的な構造把握、関係者とのリアルタイムな情報共有を可能にするネットワーク連携などです。
こうしたニーズに向けて、近年では上記の機能を備えた「3D CAD」が主流化しつつあります。同時に、3D CADのさらなる活用に向けて「BIM 」活用の概念も新たに登場しています。今やCADは、建築図面の作成だけでなく、施工に至るまでの建築分野全体に欠かせないツールといえるかもしれません。
建築CADの選定において、現状の課題やニーズを把握することはもちろん、設計スピードや品質の向上、コスト管理による生産性向上なども視野に入れて選ぶべきといえるでしょう。
ユーザーによる顧客満足度をベースに、自社に最適な建築CAD製品を選ぼう!