企業が成長していくためのカギを握るのは、ほかならぬ従業員です。各自が企業に貢献する意識をもち、主体的に業務に取り組んでくれる状況が理想ですが、実際にはそうした状況を実現するのは簡単ではありません。

従来は、労働環境や条件といった明確なメリットを提示することで従業員を動かすのが一般的でしたが、それだけは精神的な満足が得られず、貢献が長続きしないケースがあります。そんな中、近年になり重視されはじめたのが、「従業員のエンゲージメントを高める」という考え方です。この記事では、エンゲージメントの定義や、場面によって異なる使われ方について説明します。

エンゲージメントとは?

エンゲージメントの定義

エンゲージメント(engagement)は、「契約」「約束」「婚約」などを意味します。企業の人事分野では「従業員が企業に対して抱くつながりの気持ち」として定義されています。また、マーケティング分野においては、「顧客が企業に対して抱いている愛着・つながり」という意味もあります。単に「エンゲージメント」といった場合はどちらを指しているのかわからないため、前者を「従業員エンゲージメント」、後者を「顧客エンゲージメント」と区別するのが一般的です。

従業員エンゲージメントとは?

従業員エンゲージメントは、企業と従業員の間で構築される信頼関係といった意味で使われる言葉です。従業員エンゲージメントが高いほど、企業への貢献が期待できます。

混同されやすいのが「従業員満足度」という言葉です。どちらも従業員が企業に対してどれだけポジティブな感情を抱いているかを示しています。異なるのは、フォーカスしている対象です。従業員満足度は環境・人間関係にフォーカスしているに対し、従業員エンゲージメントは理念・ビジョンにフォーカスしています。

顧客エンゲージメントとは?

顧客エンゲージメントとは、企業と顧客との親密な関係性を指す言葉です。顧客エンゲージメントが高まった状態においては、顧客によるサービス・商材の継続的な利用・購入が期待できます。顧客が事業に協力してくれる状態となるため、前向きなフィードバックなど企業が成長していくために必要な情報が得られることも少なくありません。

従業員エンゲージメントの重要性

従業員エンゲージメントと顧客エンゲージメントのうち、特に近年になり注目されているのが従業員エンゲージメントです。以下では、多くの企業が従業員エンゲージメントを重要視するようになった理由を解説します。

利益の増加が期待できる

従業員エンゲージメントを高めると、利益の増加が期待できます。これは、従業員1人ひとりが貢献意識をもち、営業利益や労働生産性を高めようとするためです。企業に愛着を抱き、能動的にモチベーションを高めている状態では、従業員が「企業に貢献しよう」という明確な意志をもちます。そのため、企業が利益を獲得するうえでは、従業員エンゲージメントを高めることが重要だと考えられています。

離職を抑制できる

企業にとって大きな問題となる離職を防止できる点も、従業員エンゲージメントが重要視される理由の1つです。企業と従業員の間に信頼関係が築かれると、その企業から離れたいと思う従業員は少なくなります。労働力を維持できるだけではなく、人材の流出や採用コストの削減にもつながるでしょう。環境や条件を整えて従業員をつなぎとめるだけではなく、従業員エンゲージメントを高めて離職を防ぐ方向に多くの企業がシフトしています。

従業員の主体性が向上する

従業員エンゲージメントの高まりによって、従業員が高い主体性をもった状態で仕事に取り組むようになります。これは、従業員が仕事を「自分ゴト化」し、それぞれが自分の考えや決断をもとに仕事をするようになるためです。企業が従業員の主体性を認めるようになると、個々人の思いや個性を重視する、多様性を受け入れる企業風土が形成されるでしょう。

顧客満足度の向上が期待できる

従業員エンゲージメントは、顧客の満足度にも間接的に好影響を与えます。これは、企業への貢献の1つとして、従業員が「お客さまを喜ばせたい・満足させたい」と思うようになるためです。顧客満足度の向上が従業員のモチベーションアップにつながれば、理想的なサイクルが生まれます。そのため、従業員エンゲージメントの向上は、同時に顧客エンゲージメントを高める取り組みであるといえるでしょう。

企業の従業員エンゲージメントを高めるためには?

従業員エンゲージメントは、自然と高まっていくものではありません。以下のような、向上のための取り組みが必要です。

「エンゲージメントが高い状態」を具体的に設定する

まずは「従業員エンゲージメントが高い状態」を曖昧にせず、具体的に設定する必要があります。その状態は、他社と比較したり同じにしたりする必要はありません。自社にとっての「エンゲージメントが高い状態」をイメージし、評価の基準として設定することが大切です。

その後の施策は、目的として設定した状態をめざして打ち出していきます。重要なのは、環境や条件だけではなく、「仕事そのもの」に満足感を覚えている状態を目標として設定することです。

エンゲージメント向上につながる取り組み

続いて、設定した状態を実現するために具体的な取り組みを開始します。必要な取り組みは企業によって異なりますが、以下のようなものが代表例です。

明確なビジョンの共有

「会社と同じビジョンをもっている」という認識は、従業員にとって貢献する理由になります。会社のビジョンが実現されることにより、自分の理想の働き方や人生に近づくためです。単にキーワードやスローガンを覚えさせるだけではなく明確な経営ビジョンを共有し、その実現のためどのように働いてほしいのか伝えると、積極的な貢献が期待できます。

ワーク・ライフ・バランスの良好な環境構築

ワークライフバランスの良好なバランスを保てる環境構築も重要です。どちらかといえば、従業員満足向上のための取り組みですが、従業員エンゲージメント向上をめざすうえでも無関係ではありません。リモートワークやフレックス制の導入などが代表的な取り組みです。私生活を楽しみ、不安がない状態で仕事に打ち込めるようになるほか、「この会社は自分たちのことを考えてくれている」という印象を与えられます。

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コミュニケーションの活性化

活発なコミュニケーションを促進することも、従業員エンゲージメントの向上につながります。十分なコミュニケーションがとれている組織内では、従業員のストレスが軽減されます。従業員間のつながりが強化されるため、離職率の低下につながる点もメリットです。テレワークが普及している現在では、従業員同士が対面する機会が以前よりも少なくなっています。そのため、チャットなどのツールを柔軟に活用することが大切です。

成長できる機会の提供

従業員には、ビジネスパーソンとして成長できる機会を積極的に与えましょう。成長を実感することで従業員はモチベーションを高め、社内でのキャリアプランを見出せるようになります。従業員のスキルに対して難しい仕事や、専門外の仕事を積極的に与えるのもよいでしょう。その仕事を経て成長した従業員の中には、スキルや知識だけではなく、喜びやさらなる成長への意欲が芽生えているはずです。

現状のエンゲージメントを把握するためには?

従業員エンゲージメントを高い状態にするために、闇雲に取り組みを行うことはおすすめできません。課題を明確にするためには、まず現状のエンゲージメントを把握することが重要です。エンゲージメントは可視化できない部分もありますが、以下のような手法を用いるとその後の取り組みを考えるうえで役立つデータが得られます。

eNPSでエンゲージメントを数値化

eNPS(Employee Net Promoter Score)とは、「自社を友人や知人にどの程度おすすめしたいか?」という調査の結果から、従業員エンゲージメントを数値化する手法です。もともとは顧客に対して行われていた調査が従業員を対象として行われるようになったといわれています。

調査では、対象となる従業員に「自社や現在の職場をどの程度おすすめしたいか?」という質問をして、0~10までの推奨度を回答してもらいます。0~6は「批判者」、7~8は「中立者」、9~10は「推奨者」として回答者を分類します。その後、全体に対する推奨者の割合から批判者の割合を引き、eNPSのスコアを算出します。スコアが高いほど、従業員エンゲージメントが高いことを意味します。

一般的な従業員満足度の調査では「自社に対して満足しているか?」という質問をします。一方、eNPSの場合は自分ではなく、身近な人を想定しているのが特徴です。より慎重に考えて回答するようになるため、信頼できる結果が期待できます。

エンゲージメントサーベイ

エンゲージメントサーベイは、現状の従業員エンゲージメントを把握するための社内調査です。多くの場合は、アンケート形式で実施されます。

質問の内容は企業によって異なりますが、以下のような項目が一般的です。

・会社から何を期待されているか理解していますか?

・直近の1週間で仕事を褒められたことがありますか?

・業務における成長を応援・サポートしてくれる人が社内にいますか?

・組織内で、周りから必要とされている実感がありますか?

組織サーベイツール

組織サーベイツールとは、従業員への質問や回答の収集のために利用されるツールです。従業員エンゲージメントのほか、従業員満足度、ストレスレベルなどさまざまな調査に活用できます。

システム上に回答が集約されるため、結果の集計・確認作業が効率的になります。スマホからの調査も可能なため、従業員にとっても気軽に参加しやすいツールです。

組織サーベイツールの活用事例

組織サーベイツールを導入したことで得られるメリットについて、ITreviewに集まったレビューをもとに活用事例を紹介します。

公平に納得感のいく評価が行われるようになりました

「目標管理や評価などのデータはすべてクラウドで管理されているので働く場所を選ばないです。そして、蓄積されたデータは自動分析されるので人事担当者の工数がかなり削減することができるとともに、社長や上長の主観での評価が決まることなく公平に納得感のいく評価が行われるようになりました」
▼利用サービス:HRBrain
▼企業名:山崎石材工業株式会社 ▼従業員規模:20人未満 ▼業種:その他製造業

https://www.itreview.jp/products/hrbrain/reviews/64946

会社により大きな利益やメリットになるかを考えることができる。

「個人の目標や想いを、定量的にも定性的にも書くことができ、保存・上長などと共有が出来ること。また、会社が何を求めているかなども、記入出来るのも良いポイントである。上司や会社が何を求めているかを知ることで、どのようなことをすれば会社により大きな利益やメリットになるかを考えることができる。また、個人が自分の目標を記録できるのは、振り返りの際に、個人と会社どちらにとっても、メリットがある」
▼利用サービス:HRBrain
▼企業名:株式会社ネクストビート ▼従業員規模:100-300人未満 ▼業種:情報通信・インターネット

https://www.itreview.jp/products/hrbrain/reviews/24741

信頼関係構築のために役立っています

「チームとしてセグメントした際に、そのチームの課題を検討する為に必要なチーム状態を抽出できます。ハイジーンファクターが数値として顕在化されるので、結果を用いて課題や解決策をブレストするなどの使い方をしています。ただ、今は課題を解決するフェーズではなく、回答率を90%以上にする為に行動を起こしています。この行動も、信頼関係構築の為に役立っています」
▼利用サービス:ハタラクカルテ
▼企業名:株式会社グッド・クルー  ▼従業員規模:300-1000人未満 ▼業種:人材

https://www.itreview.jp/products/hygi/reviews/58640

感謝を伝え合う文化が育まれ、仕事が円滑に

「出社が前提だった当社が急遽リモートワーク比率8割となり、コミュニケーション不足を口にする社員がたくさん居ました。THANKS GIFTを導入したことで、ちょっとしたことでも感謝を伝え合う文化が育まれ、仕事が円滑に回るようになりました。感謝すると気持ちイイ、感謝されると嬉しい。ありがとうを伝える基準が下がり、感謝が身近になりました。副次効果として相手の良いところに目が行くようになり、コミュニケーションの質が格段に高まったと感じています。獲得ランキング、贈呈ランキングがリアルタイムで可視化されるため、コインを贈り合う後押し効果として機能しています」
▼利用サービス:THANKS GIFT
▼企業名:株式会社セミナーインフォ ▼従業員規模:20-50人未満 ▼業種:その他サービス

https://www.itreview.jp/products/thanks-gift/reviews/88102

組織サーベイツールの業界マップ

組織サーベイツールのユーザーからの評価を知るには、ITreview Gridが便利です。ITreview Gridは、ITreviewに集まったユーザーのレビューをもとに生成された4象限の満足度マップで、顧客満足度と市場での認知度を掛け合わせた結果が、4象限上でのポジショニングとして確認できます。

組織サーベイツールのおすすめ5選

実際に組織サーベイツールを使った企業の方々のレビューが多い製品を中心に、おすすめのツールを紹介します。

(2021年12月12日時点のレビューが多い順に紹介しています)

HRBrain

グラフィカル ユーザー インターフェイス, アプリケーション

自動的に生成された説明

「HRBrain」は、シンプルなUI設計でシステムの操作に慣れていないユーザーでも簡単に使える人材管理ツールです。集計機能が自動化されており、効率的に従業員エンゲージメントの調査結果を集計できます。余分なオプション費用やサポート費用が発生しないシンプルな料金体系も高く評価されています。

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ハタラクカルテ

「ハタラクカルテ」は、組織が抱えている課題の見える化に重きを置いて設計されたサービスです。離職率の低い組織づくりをサポートします。アンケートは従業員にとって負担が少ないように配慮されているため、積極的な参加が期待できます。組織全体と個人の回答結果をどちらも詳細に分析できるため、組織全体としての課題だけでなく、従業員1人ひとりが抱えている問題にもアプローチ可能です。

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wevox

「wevox」は、エンゲージメントの可視化に特化したツールです。質問作成の自動化、多角的な分析、注目すべき調査結果の検出など、現場での使いやすさに主眼を置いて開発されています。現状を把握できるだけではなく、オンライン学習などベンダー側でエンゲージメント向上のためのサポートを実施している点も特徴です。充実して内容ながら、月額300円(税抜)/1名とコストが低い点も評価されています。

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Geppo

「Geppo」は、個人サーベイと組織サーベイの両方をカバーし、企業が抱える本質的な働き方の課題を見える化するツールです。「仕事満足度」「人間関係」「健康」という3ジャンルの質問から、従業員が抱えている顕在化していない本音を吸い上げます。従業員エンゲージメントの測定用にeNPSをベースといた設問が用意されています。

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Attuned

「Attuned」は、社内のモチベーションを速やかに可視化することに特化したサービスです。55の質問の結果からモチベーションを測定し、AIが見やすくまとめられたエンゲージのデータを出力します。調査結果から個人レポートが即時発行されるほか、必要に応じて1on1ミーティングのアドバイスも得られます。

Attunedの製品情報・レビューを見る

ITreviewではその他の組織サーベイツールも紹介しており、紹介ページでは製品ごとで比較をしながら導入ツールを検討することができます。

「組織サーベイの比較・ランキング・おすすめ製品一覧」

まとめ

従業員は会社にとってもっとも重要な資産です。個々のエンゲージメントを高めることは、企業としての大きな成長につながるでしょう。従業員の性格や企業との相性によって左右されるため、闇雲な取り組みでは従業員エンゲージメントを高めることは困難です。

現在は、多くの手法が確立されているほか、従業員エンゲージメントの見える化、従業員のモチベーション向上に役立つツールも数多くあります。それらをうまく活用して、企業として掲げるビジョンの実現のため、従業員が積極的に協力してくれる組織づくりをめざしましょう。

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