企業活動において、重要な資産である顧客情報。営業活動を始め企業内のさまざまな業務で使われるが、そんな大切な情報であるにも関わらず、現在の自社での管理方法に不満をお持ちの方は多いのではないだろうか。
紙での顧客管理は誰でも扱いやすいものの集計には向いておらず、なにより場所を取る。Excelでの顧客管理は根強い人気を保っているが、誤入力による上書き、複数人での同時入力・作業のやりにくさ、データ破損に備えたバージョン違いのファイル管理の煩雑さなど課題もある。また、従来の顧客管理システムは使い勝手が悪く、せっかくの顧客データをうまく活用できていないことが多いようだ。
本記事では、従来の顧客管理と比較をしながら、CRMツール導入によって何が実現できるのかを考察していく。
1. そもそも、CRMツールとは?
CRMはCustomer Relationship Managementの略で、日本語では「顧客関係管理」などと訳される。
「顧客と長期的に良好な関係性を築くことで自社の売上拡大を図る経営手法」が元来の意味だが、現在ではそれを実現するためのツール自体をCRMと指すことが一般的である。
見込み客からリピーターまで全ての顧客情報を管理・分析し、顧客に応じたきめ細かい対応をすることで顧客満足度を高め、「LTV:Life Time Value(顧客生涯価値)」の最大化を目指すことが目的である。
CRMを導入することで、これまで各部門に点在していた顧客情報が一元管理、可視化でき、企業全体での有効な活用につながる。
営業部門では、商談内容を共有することで効果的な営業戦略を立て、営業活動の効率化を図ることができ、マーケティング部門では、蓄積された情報を分析し、戦略的なマーケティングに活用することができる。商品開発部門では、顧客からの問い合わせ履歴を分析し、次の商品開発に役立て、カスタマーサポート部門では、これまでの問い合わせを踏まえた質の高いサポートを提供することで顧客満足度の向上が可能となる。
CRMは、顧客との接点を持つ全ての部門で活用できる、企業活動の中心となるデータベースでもあるともいえる。

2. CRM導入で実現できる顧客管理の効果とは?
現在、CRMを導入していなくとも、何らかの方法で顧客管理を行っている方がCRMを導入することで、どういった課題解決の効果を得られるのかを具体例と共に見ていきたい。
・顧客情報の更新を効率的にミスなく行いたい
Excelで顧客管理を行っている場合、複数人での情報更新に悩まれる方が多い。
Excelは最新の状況を一目で確認する分には優秀だが、複数人が同時入力するには行える操作に制限があり、また、一度データを書き換えてしまうと前回訪問の記録情報や、以前の担当者情報などは消えてしまう。それを防ぐために、「前々回の訪問日時」「以前の担当者」などと情報を追加すると、日に日にリストは巨大なものになってしまい、容量は重く、使い勝手が悪くなる。また、新しい顧客情報を各自が追加していく場合には、重複した情報が蓄積されてしまうこともありうる。一度連絡をしているにも関わらず別の営業担当からも連絡をしてしまい、クレームになることも珍しくはない。
CRMを導入すると、複数人での同時作業ができ、顧客情報の検索や更新がスムーズになる。さらに登録された顧客情報に重複がある場合にも、名寄せ機能により情報を一つに統合することができる。
・蓄積した顧客情報をマーケティングに活用したい
手間暇をかけて顧客情報を蓄積しても、活用されなければ意味がない。
Excelでのリスト化や名刺管理ソフトへの取り込みなどにより顧客情報を有している方は多い。しかし、日々の企業活動の中で積み重なる見込み客について一斉配信メールに利用するなど限定的な活用になっていたり、フォローは営業部門任せで、その後の状況がどのようになっているかマーケティング部門では把握できていなかったりということがあるのではないか。
CRMを導入することで、自社の顧客の傾向をさまざまな角度から容易に分析することができ、その結果をもとに、適切なターゲットに向けたマーケティング活動をCRMの管理画面から直接行う事ができる。顧客情報の獲得方法やその後の購買履歴を記録している場合、どの方法にどのくらいのコストをかけ、結果的にどれだけの売上を生み出すことができたのか、費用対効果を正確に把握し、今後のマーケティング活動への投資に活用することが可能となる。
・営業の日々の情報入力を効率化したい
顧客管理において、正確な情報をリアルタイムに反映されるようにすることは非常に重要である。しかし、Excelや独自の顧客管理システムを利用している場合、入力を社内で行わなければならず、情報が更新されるまでにタイムラグが生じる事が多く見られる。
営業担当が訪問していたにも関わらず、顧客情報を更新していなかったことで、カスタマーサポートに問い合わせがあっても適切な対応がとれず、クレームに繋がるということも珍しくない。
CRMを導入することで、営業担当が訪問直後にスマートフォンから、商談情報や次回の商談予定を入力し、関係者への情報共有をその場で完了することが可能となる。営業の役割はひとつでも多くの商談を行うことにあり、入力の効率化は避けては通れない課題である。課題を解決すれば、営業は今まで以上に多くの顧客先を訪問し商談することができ、売上拡大はもちろん、顧客満足度の向上、リピート率の向上に繋がる。
・報告会議を戦略会議へ変えていきたい
Excelなどで顧客管理を行っている場合、日々の活動管理に必要な情報をあれもこれもと追加しがちなため、気が付くと列が増えてしまっているということはないだろうか。結果的にそのままでは報告資料として使用できないため、会議の前には必要な情報のみを抜き出して加工し印刷する、といった手間がかかってしまう話は珍しくない。
また、せっかく会議が始まっても、初めてその資料を目にする上長に説明するために、ひとりずつ現状と次のアクション、着地予想を発表するだけの場となってしまっていることもある。
CRMを導入すると、膨大な情報から必要な情報だけをレポート化することが容易になる。さらに各自の営業状況はわかりやすくグラフ化され、管理者がリアルタイムで確認でき、会議を待たずに部下に対して適切な指示を行う事が可能となる。
過去の商談履歴もすぐに確認できるため、御用聞き営業になってしまっていないか、今訪問すべきところではなく、訪問しやすいところになってしまっていないか、など営業活動を分析し、効果的な営業会議が行えるようになる。
・お客様からの問い合わせを他部門でも把握したい
CRMを導入していない場合、お客様からの問い合わせは部門ごとに管理され、カスタマーサポート部門だけが把握している、または営業担当だけが把握しているということも珍しくない。営業とカスタマーサポートとの連携がうまくいかずにクレームに繋がるといった、部門を跨いだトラブルは絶えない。
CRMを導入すると、全ての問い合わせは一元管理されるために、どのような問い合わせがあり、今はどのような状況にあるのか、誰がいつ対応を行ったか、全て記録に残すことができる。営業担当は対応情報をいつでも確認できるため、対応状況を確認後にお詫びのご連絡を入れるといった、これまで以上のアクションを取れるようになり、顧客満足に繋げていくことができる。
3. CRMの具体的な機能について
CRMは単なる顧客データベースではありません。「Relationship」と名前が示すとおり、顧客との関係性を深めるためのさまざまな機能を併せ持っている。ここではCRMの主な機能について具体的に見ていく。
・顧客情報管理
CRMの最も基本であり、最も重要な機能が顧客管理機能である。
CRMを導入すると、現在の管理方法にくらべて管理できる情報の幅は大きく広がる。顧客の名前(会社名や担当者名)、住所、電話番号、メールアドレスなどの基本情報に加えて、これまでの商談履歴や、商談の際に提出した提案書や見積書、契約(購買)履歴、お問い合わせやクレームの履歴など、さまざまな顧客との接点をまとめて管理できる。項目をカスタマイズすることで、自社の戦略に合った独自の情報を記録することも可能だ。
顧客の情報を深く知ったうえで適切な営業活動や問い合わせ対応が行えるだけではなく、蓄積された膨大な情報を分析することで、効率的な営業活動や、効果的なマーケティング、顧客のニーズにあった商品開発など、さまざまな業務に活用することができる。
・見込み客(リード)管理
企業の売上拡大に、新規顧客の開拓は必要不可欠である。ホームページからのお問合せ、代表番号への電話、イベントやセミナーへの参加、展示会での名刺交換など自社製品に興味を持った見込み客情報を入手しても、適切なフォローをしなければ顧客に転換していくことはできない。CRMを導入すると、問い合わせフォーム連携・名刺読み取りなどによって情報を効率的に取り込める他、優先度の高い見込み客の特定、最適な営業担当の割り当て、フォローアップメールの自動送信、その後の商談管理など、さまざまな支援機能を活用し、見込み客の効率的な顧客化を進めていくことができる。
・営業支援
多くのCRMツールは、SFA(Sales Force Automation:営業活動自動化)の機能を併せ持っている。CRMを導入することで、営業活動に関するさまざまな情報共有が可能になるほか、標準的なプロセスを登録し、各フェーズで行うべきタスクの表示や優先順位の判断をしてくれるなど、属人化しがちな営業活動を、スキルの偏りなく効率的に行う事ができるようになる。また、営業担当は外出先からスマートフォンを利用して外出中のすき間時間で活動報告を行えるため、日報入力のために帰社する必要はなくなる。
蓄積された情報はさまざまな角度から確認をする事ができ、書類作成や報告のための時間も削減され、営業担当にとって心強い機能である。
・マーケティング支援
CRMには最新の顧客情報がリアルタイムに蓄積されていくため、そのデータを様々なマーケティング活動に利用することができる。その方法はさまざまであるが、もっとも基本的な活用法としてメール配信が挙げられる。メールを希望する全員に向けて一斉配信するメールマガジン、一定期間購入のない顧客や「製品Aを購入した顧客」などターゲットを絞って配信するターゲティングメール、購入日などの日付を起点としてストーリー性のあるメールを段階的に送るステップメールなど、柔軟で効果的なメール配信を行う事が可能である。
メールの他にも、アンケートを作成し収集した結果を顧客属性や購入情報と掛け合わせた高度な分析を行う、蓄積されたデータをもとに効果的なインターネット広告を配信する、マーケティングの費用対効果を測定するなど、ツールによってさまざまなマーケティング支援機能が用意されている。
・問い合わせ管理
電話、メール、お問い合わせフォームなど、カスタマーサポート部門には顧客からさまざまな方法でお問い合わせが寄せられる。CRMを導入することで、各チャネルからのお問い合わせを一元管理することができる。1つの画面上で全てのお問い合わせをまとめて確認し、それぞれに担当者を割り当てることで、対応漏れや二重対応を予防することができる。また、未対応や優先順位の高いものなどを容易に把握でき、他の担当者への引継ぎやエスカレーション作業をスムーズに行うこともできる。他にも、良くあるお問い合わせをテンプレート化する機能や、自社ホームページ上にチャットによる問い合わせ受付機能を増やすなど、さまざまな支援機能があります。
製品を選定する際は、どのような経営課題を解決したいのかを明確にした上で、各製品で実現することができるのかを十分に検証し、最適な製品を選択してほしい。
4.評価の高いCRMシステムとは?
CRMと称するツールは数多く市場に展開されており、さまざまなタイプの製品がそれぞれの特徴をアピールしながら販売している。大量の製品の中から自社に合ったツールを選定するのは何か選定の基準がないと難しいだろう。ここでおすすめしたいのが、ツールの「顧客満足度」を1つの指標にすることだ。
IT製品を導入する際よく起こる問題の1つが、現場で浸透せず使われなくなってしまう、といったようなことだ。これは現場のユーザーにとって使いづらかったり、現場業務の痒いところに手が届かない、サポートが十分でないといったことが原因となっているケースが多い。
顧客満足度は既に利用中のユーザーからの評価そのものであり、満足度が高い製品はこれらの問題が起きない事が多いといえる。 ITreview では、実際にCRMを利用中のユーザーから高い評価を得ているツールをCRMのLeader製品、High Performer製品として分かりやすくバッジを付けて紹介している。
今回は、多くのCRM製品の中から、上記のLeader製品とHigh Performer製品を紹介していこう。それぞれの製品のレビューも確認できるため、どんな方がそのツールを活用しているのか、ぜひ確認していただきたい。
1.Salesforce Sales Cloud

Salesforce Sales Cloudは、もともと営業支援のSaaSとして市場に投入され、普及と発展を遂げてきた。今日では、SFAとCRMの機能を併せ持つクラウドサービスとして企業に広く浸透しており、日本を含む世界で最もシェアの高い※ ツールとされている。
機能としては、既存顧客管理、見込み客管理、案件管理、売上予測、レポート/ダッシュボード生成などの機能を備え、最近ではマーケティングオートメーション(MA)機能も一部サポートしている。こうした Salesforce Sales Cloud の活用によって、潜在顧客を発掘から見込み客を育成し、案件の早期受注を図るプロセスが効率化できるという。
さらに近年ではAI(人工知能)の機能も組み込まれている。このAIの働きによって、購入確率の高い顧客・案件・正確な売上予測などを簡単に把握することができるという。
Salesforce Sales Cloudのユーザーや活用方法は?レビューをチェックする
※『IDC, Worldwide Semiannual Software Track er, October 2018』調査による
2.Intercom

Intercom(インターコム)は、ビジネスメッセージング(メール/チャット)を通じた顧客とのパーソナルな対話を、営業活動やマーケティング活動、カスタマーサービスの効率化に役立てるタイプのクラウドCRMシステムである。Webサイト/Webサービスを運営する企業に向けた統合型CRMシステムとして提供されており、海外製品のために日本ではそれほど有名ではないが、開発・提供元のインターコム社(2011年設立)のサイトによれば、すでに世界で3万社を超える企業が Intercom を活用しているという。
Intercomを使うことで、例えば、Webサイト来訪者の行動を自動で追跡して見込み客を特定し、最も商談成立の可能性の高い見込み客とリアルタイムにチャットで対話すること可能になる。また、特定の顧客行動をトリガーにしてターゲティングメールを自動的に送信することもできる。
さらに、カスタマーサービス業務の効率化に向けて、チャットボットの機能を使いつつ、顧客からの問い合わせにチャットで、効率的に対応する機能も提供しており、対応時には、問い合わせをしてきた顧客が誰かを瞬時に特定し、その情報を表示させる機能も備えている。さらに、顧客による自己解決を可能にするヘルプデスクの機能も提供している。
Intercomのユーザーや活用方法は?レビューをチェックする
3.Synergy!

Synergy!(シナジー)は、実店舗、Web、メール、スマートフォンアプリ、SNSなど、さまざまな顧客接点からの情報を一元管理し、個別化されたマーケティング施策に活かすための国産クラウドCRMシステムである。CRMの扱いに慣れていない担当者でも短期間で使い方が習得できる高い操作性と、あらゆる業種・業態にも対応できる自由度の高い設計を大きな特徴としている。
Synergy! は、顧客情報の一元管理と分析の機能を提供するデータベース機能と、顧客情報を収集するためのフォーム/アンケートの作成支援機能、さらには顧客の育成や販促のための情報をターゲットに伝える機能(メール配信/LINE配信/広告連携)から構成される。
データベースでは、顧客の基本プロファイルをはじめ、メールマガジンのクリックや実店舗でのクーポン利用、購買履歴といった顧客行動とタッチポイントでのログを一元的に管理することができ、顧客行動をメール配信などのアクションのトリガーとして使うこともできる。また、データベースの項目から「絞り込みリスト」を作成し、ターゲティングメールの施策に活かせるほか、CSVフォーマットを使ったデータのインポート/エクスポートにも対応しており、Excelなどの外部のデータソースからの、必要なデータを簡単に取り込むことができる。
さらに、SNS広告やGoogle広告、DMPとの連携により、CRM活動で獲得した顧客のデータを広告配信の最適化に活用することも可能としている。
Synergy!のユーザーや活用方法などレビューをチェックする
4. Zoho CRM

Zoho CRMは、CRMとSFA、さらにはMAの機能が一体化されたクラウド型のCRMシステムである。業務形態に合わせた柔軟なカスタマイズが可能であるほか、シンプルなインタフェースによる使いやすさ、コストパフォーマンスの良さを特徴としている。ZohoCRMの主な機能としては、下記が挙げられる。
・顧客情報の一元管理と分析
・セールスパイプラインの管理
・メール配信などの業務フローの自動化
・Google AdWordsとの連携によるリスティング広告の効果測定
・統合されているMA機能( Zoho Campaigns )以外のMAツールとの連携機能
このうち顧客情報の管理では、顧客の基本プロファイルや取引実績のほかに、電話やメール、SNS、チャットなど、さまざまな方法で行われる顧客とのコミュニケーションを一元管理することができる。また、メールの開封状況やWebサイトの訪問履歴から、顧客の興味を把握することも可能だ。
さらに、営業チームのKGI(重要目標達成指標:Key Goal Indicator)/KPI(重要業績評価指標:Key Performance Indicator)に沿って、達成度を計測して可視化する機能も備えている。このほか、見込み客の発見や、顧客のメール内容に応じた返信内容の最適化、連絡タイミングの最適化などを自動化するためのAIも組み込まれている。